Market evolution: 野菜果実調製品 (CN 20) — 2015–2025
はじめに
本レポートは、EUの税番号CN 20(野菜、果実、ナッツまたはその他の植物部分の調製品)に関する2015年から2025年までの域外貿易動向を分析するものである。対象となる品目は、CN 2001(酢漬け野菜・果実)、CN 2002(トマト調製品)、CN 2005(冷凍でないその他の野菜調製品)、CN 2007(ジャム・マーマレード類)、CN 2008(果実・ナッツ調製品)、CN 2009(果汁・野菜ジュース)など幅広い下位分類を含む統合見出しである。2015年から2025年にかけて、EUはこの分野で純輸出国からさらに強固な純輸出国へと転換し、貿易黒字は約4倍に拡大した。本レポートは、概要ページおよびその他のダッシュボードセクションのデータに基づき、主要な市場動向を三つの観点から解説する。
1. 貿易黒字の大幅拡大:生産力強化と価格上昇の相乗効果
1.1 輸出の急成長が黒字拡大をけん引
EUのCN 20の域外貿易は、分析期間を通じて大幅な黒字拡大を示した。輸出額は2015年の74億2,753万ユーロから2025年の130億1,369万ユーロへと75.2%増加し、一方、輸入額は60億8,505万ユーロから80億1,060万ユーロへと31.6%の増加にとどまった。この成長率の差異により、貿易黒字は2015年の13億4,247万ユーロから2025年の50億3,087万ユーロへと272.7%拡大し、EUの域外市場における競争力の顕著な強化を示している。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸出額 | 74億2,753万€ | 130億1,369万€ | +75.2% |
| 輸出数量 | 658万トン | 751万トン | +14.1% |
| 輸出単価 | 1,128€/トン | 1,733€/トン | +53.6% |
| 輸入額 | 60億8,505万€ | 80億1,060万€ | +31.6% |
| 輸入数量 | 422万トン | 402万トン | -4.9% |
| 輸入単価 | 1,441€/トン | 1,994€/トン | +38.4% |
| 貸借差引 | 13億4,247万€ | 50億3,087万€ | +272.7% |
(概要データ)
1.2 輸入数量減少と輸入価格上昇の逆相関
注目すべきは、輸入額が31.6%増加したにもかかわらず、輸入数量が4.9%減少している点である。これは、2022年の急騰期を経た後の2025年においても輸入単価が1,994€/トンと最高値を記録していることから、数量減少を上回る価格上昇圧力が輸入額を押し上げたことを意味する。一方、輸出は数量が14.1%増加しただけでなく、単価も53.6%上昇し、量と価格の両面から輸出額を押し上げた。
1.3 EU域内生産の飛躍的拡大
CN 20のEU域内生産量は、2015年の149億キログラムから2025年の387億キログラムへと159.4%増加し、生産額は147億ユーロから673億ユーロへと356.5%拡大した。生産額の増加率が数量のそれを大幅に上回っていることは、高付加価値品目への構造シフトが進んでいることを示唆する。この生産力の強化が、域外輸出の拡大と域内需要の充足を同時に可能にし、貿易黒字の大幅拡大につながった。
(生産量データ)
1.4 純輸入依存度の構造的変化
純輸入依存度(生産に対する純輸入の比率)は、2015年の-2.2%(純輸出国)から2025年の1.7%へと推移し、一時期2.8%に達した後、再び低位で安定している。貿易収支の大幅な拡大にもかかわらずこの指標がほぼ均衡していることは、EU域内生産の拡大が輸出増加と並行して域内消費の増加も同時に満たしていることを示す。貿易強度(GDPに占める貿易額の比率)は21.2%から28.6%へと34.9%上昇し、CN 20分野のEU経済における開放性が高まっている。
(純輸入依存度)
2. 貿易パートナーの再編:Brexit後の英国後退と新興市場の台頭
2.1 輸入における主要サプライヤーの変動
EU域外からのCN 20輸入を主要パートナー別に見ると、トルコが最大のサプライヤーとしての地位を維持・強化している。2015年の14億229万ユーロから2025年の17億1,331万ユーロへと22.2%増加し、最大の輸入相手国となっている。ブラジルも11億5,766万ユーロから12億896万ユーロへと安定的に推移し、2位の地位を維持した。
| 輸入相手国 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| トルコ | 14億229万€ | 17億1,331万€ | +22.2% |
| ブラジル | 11億5,766万€ | 12億896万€ | +4.4% |
| 中国 | 4億6,730万€ | 6億5,719万€ | +40.6% |
| 英国 | 5億8,998万€ | 3億4,223万€ | -42.0% |
| インド | 1億1,212万€ | 2億5,301万€ | +125.7% |
| タイ | 2億9,433万€ | 2億3,922万€ | -18.7% |
| コスタリカ | 1億6,382万€ | 2億2,235万€ | +35.7% |
2.2 英国からの輸入急減とBrexitの影響
最も顕著な変化は英国からの輸入であり、2015年の5億8,998万ユーロから2025年の3億4,223万ユーロへと42.0%減少した。英国は2020年1月末のEU離脱(Brexit)を経ており、2015年には4位であった輸入相手国が2025年には7位圏外に後退している。CN 20は加工食品であり、衛生植物検疫(SPS)規制の導入が貿易障壁として機能した可能性が高く、Brexit後のEU-英国間食品貿易の摩擦を如実に反映している。
2.3 インドの急成長と供給源の多角化
インドからの輸入は1億1,212万ユーロから2億5,301万ユーロへと125.7%増加し、分析期間中の最も急成長を遂げた供給源となった。中国も40.6%増の6億5,719万ユーロに達し、アジア諸国の存在感が高まっている。これにより、輸入のHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数、価値ベース)は2015年の1,144から2025年の877へと23.4%低下し、供給源の多角化が進展した。
(集中度データ)
2.4 輸出先の多角化と米国市場の急成長
輸出面では、英国が26億9,180万ユーロから40億8,223万ユーロへと51.7%増加し、最大の輸出先としての地位を強化した。しかし、最も急成長を遂げたのは米国市場であり、9億4,819万ユーロから21億3,043万ユーロへと124.7%増加した。サウジアラビア(+69.7%)、日本(+58.9%)、オーストラリア(+101.5%)もいずれも顕著な成長を示し、中東・アジア太平洋市場への展開が進んでいる。一方、ロシアへの輸出は3億7,526万ユーロから2億8,415万ユーロへと24.3%減少し、地政学的要因の影響が窺える。
| 輸出相手国 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 英国 | 26億9,180万€ | 40億8,223万€ | +51.7% |
| 米国 | 9億4,819万€ | 21億3,043万€ | +124.7% |
| サウジアラビア | 2億8,309万€ | 4億8,035万€ | +69.7% |
| 日本 | 3億2,102万€ | 4億7,996万€ | +58.9% |
| ロシア | 3億7,526万€ | 2億8,415万€ | -24.3% |
| オーストラリア | 2億3,250万€ | 4億948万€ | +101.5% |
| ブラジル | 1億2,985万€ | 2億3,595万€ | +81.7% |
2.5 EU域内の専門化パターン
EU域内では、南部地中海諸国が輸出において比較優位を持つ構造が鮮明である。2025年のRSCA(標準化対称比較優位指数)によれば、ギリシャ(0.672)、スペイン(0.286)、ベルギー(0.256)、イタリア(0.206)が最も専門化度が高い。対照的に、アイルランド(-0.919)、フィンランド(-0.871)、チェコ(-0.658)は専門化度が低く、北欧・東欧諸国はこの分野で域外貿易における競争力を有していない。輸入面では、オランダが22億7,699万ユーロで最大の域外輸入国であり、交易ハブとしての機能を果たしている。
(専門化データ)
3. 品目別構造変化と2022年の供給ショック
3.1 輸入における果汁(CN 2009)の量減価増
品目別に見ると、輸入量の最大品目は果汁・野菜ジュース(CN 2009)であり、2015年の218万トンから2025年の153万トンへと29.9%減少した。しかし、輸入額は22億6,128万ユーロから29億843万ユーロへと28.7%増加し、輸入単価が900€/トン(2020年)から1,895€/トン(2025年)へと倍増している。これは、輸入数量が減少する中で価格上昇が額を押し上げた典型的な例であり、果汁原料の世界的な供給逼迫と投機的価格上昇を反映している。
| 品目 | 輸入数量(2015) | 輸入数量(2025) | 変化率 | 輸入額(2015) | 輸入額(2025) | 変化率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| CN 2009 果汁 | 218万トン | 153万トン | -29.9% | 22億6,128万€ | 29億843万€ | +28.7% |
| CN 2008 果実・ナッツ調製品 | 90万トン | 98万トン | +8.2% | 20億9,510万€ | 23億8,996万€ | +14.1% |
| CN 2005 その他野菜 | 44万トン | 58万トン | +31.5% | 7億7,359万€ | 12億3,013万€ | +59.0% |
| CN 2002 トマト | 29万トン | 36万トン | +22.4% | 2億8,541万€ | 4億5,015万€ | +42.0% |
| CN 2001 酢漬け | 21万トン | 37万トン | +75.3% | 2億7,070万€ | 5億4,395万€ | +101.0% |
(品目比較データ)
3.2 輸出における冷凍野菜(CN 2004)の成長と価格高騰
輸出では、冷凍野菜調製品(CN 2004)が最大品目として成長を続けた。輸出数量は206万トンから277万トンへと34.2%増加し、輸出額は14億7,868万ユーロから35億8,194万ユーロへと142.2%拡大した。輸出単価も718€/トンから1,295€/トンへと80.4%上昇し、量と価格の双方が大幅に成長した。トマト調製品(CN 2002)も10億7,474万ユーロから17億4,199万ユーロへと62.1%増加し、EU南部の加工トマト産業の競争力を示している。
| 品目 | 輸出数量(2015) | 輸出数量(2025) | 変化率 | 輸出額(2015) | 輸出額(2025) | 変化率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| CN 2004 冷凍野菜 | 206万トン | 277万トン | +34.2% | 14億7,868万€ | 35億8,194万€ | +142.2% |
| CN 2002 トマト | 128万トン | 138万トン | +8.2% | 10億7,474万€ | 17億4,199万€ | +62.1% |
| CN 2009 果汁 | 127万トン | 129万トン | +1.9% | 13億9,738万€ | 22億3,129万€ | +59.7% |
| CN 2005 その他野菜 | 107万トン | 116万トン | +8.1% | 15億8,117万€ | 26億1,004万€ | +65.1% |
| CN 2008 果実・ナッツ調製品 | 43万トン | 43万トン | +0.8% | 8億6,620万€ | 13億8,468万€ | +59.9% |
3.3 2022年の価格ショックと供給の脆弱性
2022年には複数の主要輸入パートナーにおいて顕著な価格ショックが観測された。コスタリカからの輸入価格は異常値指数11.6(異常性の程度)、前年比41.1%上昇を記録し、EUの果汁・熱帯果実輸入における供給脆弱性を露呈した。ペルーも異常値指数10.5、19.5%上昇であり、南米からの供給チェーンに一時的な圧力がかかったことを示す。中国からの輸入価格も異常値指数5.0、34.8%上昇し、世界的な物流混乱とエネルギーコスト上昇がCN 20分野の価格に波及した。
| ショックイベント | パートナー | フロー | 異常値指数 | 前年比変化 | 対象年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 価格ショック | コスタリカ | 輸入 | 11.6 | +41.1% | 2022年 |
| 価格ショック | ペルー | 輸入 | 10.5 | +19.5% | 2022年 |
| 価格ショック | 中国 | 輸入 | 5.0 | +34.8% | 2022年 |
3.4 パートナー別のボラティリティ格差
輸入において最も変動が大きいのはエジプト(変動係数CV=0.618)と英国(CV=0.506)であり、英国の高ボラティリティはBrexit後の貿易条件の変動を反映していると解釈できる。一方、モロッコ(CV=0.076)やコスタリカ(CV=0.067)は安定した供給源であり、地中海・中米の生産基盤の信頼性を示す。輸出では、ロシア(CV=0.309)が最も変動が大きく、地政学的リスクの影響が顕著である。対照的に、英国(CV=0.071)や日本(CV=0.078)、スイス(CV=0.069)は安定した輸出先となっている。
3.5 全品目にわたる価格上昇の構造性
輸入・輸出双方の全主要品目において、2015年から2025年にかけて輸入単価は38.4%上昇し(1,441€/トン→1,994€/トン)、輸出単価は53.6%上昇した(1,128€/トン→1,733€/トン)。特に冷凍野菜の輸出単価は718€/トンから1,295€/トンへと80.4%上昇し、また果汁の輸入単価は1,035€/トンから1,895€/トンへと83.1%上昇している。2022年の急騰期を経た後も価格は高位で推移しており、輸入価格は2025年に1,994€/トンの最高値を記録している。この価格上昇の構造性は、世界的なエネルギーコスト上昇、サプライチェーン再編、および加工食品市場全体のプレミアム化傾向を反映していると解釈できる。
おわりに
CN 20(野菜果実調製品)のEU域外貿易は、2015年から2025年にかけて構造的な変貌を遂げた。第一に、EUは域内生産の飛躍的拡大(量+159.4%、額+356.5%)を背景に、貿易黒字を13億ユーロから50億ユーロへと拡大し、域外市場における圧倒的な輸出競争力を確立した。第二に、Brexitに伴う英国からの輸入急減(-42.0%)やインド・中国等の新興供給源の台頭により、貿易パートナーの構成は大きく再編され、供給源の多角化(HHI-23.4%)が進展した。第三に、2022年の世界的な価格ショックを経験しつつも、全品目・全方向において価格上昇が構造化しており、加工食品市場全体の高付加価値化が進行している。
今後の展望として、地中海諸国を中心とするEU南部の専門化がさらに進む一方、果汁分野(CN 2009)における域外依存の構造的な価格リスクは引き続き注視が必要である。また、EUの「Farm to Fork」戦略の下での持続可能な食品システムへの移行が、CN 20分野の貿易構造にどのような影響を及ぼすかが、次の注目ポイントとなるであろう。