Market evolution: 魚介類調製品 (CN 16) — 2015–2025
はじめに
本報告書は、EU のCN 16(食肉、魚介類、甲殻類、軟体動物または他の水生無脊椎動物、もしくは昆虫の調製品)に関する域外との貿易動向を2015年から2025年にかけて分析する。CN 16は、ソーセージ類(1601)、調製肉類(1602)、エキス・エッセンス(1603)、調製魚介類(1604)、ならびに甲殻類・軟体動物の調製品(1605)の5つの下位分類を含む広範なコードであり、EU の食肉加工業と水産加工業の両方を網括する。対象期間中、EU のCN 16 貿易は輸出額で49.3%の成長を記録したが、その成長は数量ではなく価格に大きく依存していた。また、純輸入依存度が21.8%から2.4%へと劇的に低下し、EU の域内供給力が強化されたことが示された。以下では、この11年間の主要な動向を3つの観点から分析する。
1. 価格上昇に牽引された輸出拡大と貿易収支の劇的な改善
1.1 輸出額の成長は価格効果が主因
EU のCN 16 輸出額は、2015年の約37.97億ユーロから2025年の約56.70億ユーロへと49.3%増加した。しかし、輸出数量は同時期に99万トンから97.1万トンへとむしろ2.0%減少しており、値上がりのほぼすべてが単価上昇に起因する。輸出単価は3,835ユーロ/トン(2015年)から5,841ユーロ/トン(2025年)へと52.3%上昇し、数量の減少を十分に補って余りある水準にある。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸出額(億ユーロ) | 37.97 | 56.70 | +49.3% |
| 輸出数量(万トン) | 99.0 | 97.1 | −2.0% |
| 輸出単価(ユーロ/トン) | 3,835 | 5,841 | +52.3% |
1.2 輸入は数量・単価ともに緩やかに増加
輸入サイドでは、額が46.10億ユーロ(2015年)から57.31億ユーロ(2025年)へと24.3%増加した。数量は109.7万トンから118.3万トンへと7.8%の増加にとどまり、単価は4,203ユーロ/トンから4,846ユーロ/トンへと15.3%上昇した。輸出単価の上昇率(52.3%)と比較すると、輸入単価の上昇率は控えめであり、この差が貿易収支の改善を支えた主要因の一つである。
1.3 貿易赤字はほぼ解消された
2015年に約8.13億ユーロの赤字を記録していた貿易収支は、2020年前後に黒字に転換(最大で約3.23億ユーロの黒字を記録)し、2025年にはわずか約0.61億ユーロの赤字にまで縮小した。純輸入依存度は21.8%(2015年)から2.4%(2025年)へと89.2%低下し、EU のCN 16分野における自給度が飛躍的に高まったことを示している。これは、EU 域内の生産能力の拡大と輸出競争力の向上を反映している可能性が高い。
1.4 セグメント別の構造変化:調製肉類とソーセージ類の輸出が急成長
CN 16の下位コード別に見ると、輸出における構造変化が顕著である。CN 1602(調製肉類)は最大の輸出品目として2015年の約18.20億ユーロから2025年の約26.51億ユーロへと成長したが、最も急成長を示したのはCN 1601(ソーセージ類)であり、8.30億ユーロから14.89億ユーロへと約79.4%増加した。一方、CN 1604(調製魚介類)は輸出額こそ8.21億ユーロから11.71億ユーロへと増加したものの、数量は21.2万トンから17.6万トンへと減少しており、こちらもまた価格上昇(単価は3,876ユーロ/トンから6,646ユーロ/トンへ)が成長を牽引した。
輸入ではCN 1604(調製魚介類)が圧倒的に大きく、2025年時点で約34.82億ユーロ(全輸入の約61%)を占める。CN 1602(調製肉類)の輸入数量は2015年の32.6万トンから2025年の26.2万トンへと約19.5%減少しており、域内での肉類加工の代替が進行した可能性がうかがえる。
2. 貿易パートナーの再編と新興市場の台頭
2.1 輸出先:英国への集中は維持しつつも、米国・ウクライナが急拡大
EU のCN 16 輸出先として最大のパートナーは英国であり、2015年の約23.28億ユーロから2025年の約32.17億ユーロへと38.2%増加し、全輸出の約56.7%を占める。英国はEU域外最大の近接市場として圧倒的な存在感を持ち続けている。
ただし、最も高い成長率を示したのは米国(+193.8%、1.55億→4.54億ユーロ)とウクライナ(+523.0%、0.16億→0.98億ユーロ)である。ウクライナへの輸出は2022年以降に急増しており、ロシアによる侵攻後のEU の支援活動や貿易関係の深化と関連している可能性がある。スイス(+52.0%)、セルビア(+123.6%)、日本(+59.4%)も堅調に成長している。
| 輸出先 | 2015年(億ユーロ) | 2025年(億ユーロ) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 英国 | 23.28 | 32.17 | +38.2% |
| 米国 | 1.55 | 4.54 | +193.8% |
| スイス | 2.15 | 3.27 | +52.0% |
| ウクライナ | 0.16 | 0.98 | +523.0% |
| ノルウェー | 1.23 | 1.46 | +19.4% |
| セルビア | 0.41 | 0.91 | +123.6% |
| 日本 | 0.81 | 1.29 | +59.4% |
2.2 輸入先:エクアドルと中国の急成長、英国・ブラジルの後退
輸入サイドでは、エクアドルが最大の成長を遂げた。同国のEU向け輸出額は4.08億ユーロ(2015年)から9.81億ユーロ(2025年)へと140.2%増加し、CN 16 輸入の最大供給国に昇格した。エクアドルはエビなどの甲殻類の主要生産国であり、CN 1605のセグメント成長と関連していると推測される。
中国からの輸入も160.0%増の5.30億ユーロに達し、ベトナム(+50.6%)、モロッコ(+22.1%)も増加基調にある。一方で、英国からの輸入は5.73億ユーロから3.25億ユーロへと43.4%減少し、ブラジルも4.52億ユーロから2.39億ユーロへと47.2%減少した。英国の減少はBrexit後の貿易摩擦や原産地規則の変更と関連している可能性が高く、ブラジルの減少は食品安全規制の厳格化や調達先の多角化を反映している可能性がある。
| 輸入元 | 2015年(億ユーロ) | 2025年(億ユーロ) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| エクアドル | 4.08 | 9.81 | +140.2% |
| 中国 | 2.04 | 5.30 | +160.0% |
| タイ | 4.53 | 4.66 | +2.8% |
| モロッコ | 3.80 | 4.64 | +22.1% |
| 英国 | 5.73 | 3.25 | −43.4% |
| ベトナム | 2.41 | 3.63 | +50.6% |
| ブラジル | 4.52 | 2.39 | −47.2% |
2.3 EU域内の貿易構造:ポーランドとスペインの躍進
EU 加盟国単位で見ると、輸出ではポーランドが際立った成長を見せた。ポーランドのCN 16 輸出額は3.50億ユーロ(2015年)から9.84億ユーロ(2025年)へと181.3%増加し、EU 最大の輸出国に成長した。スペイン(+85.5%、3.37億→6.25億ユーロ)とイタリア(+110.5%、2.94億→6.19億ユーロ)も急成長を遂げた。一方、アイルランド(+1.5%)やドイツ(+6.6%)は成熟市場として横ばい傾向を示した。
輸入ではスペインが最大の成長を見せ(6.75億→12.57億ユーロ、+86.4%)、オランダ(+19.7%)、イタリア(+23.7%)がそれに続く。
3. 供給構造の変動性と2022年の価格ショック
3.1 輸入先の変動性は国によって大きく異なる
主要輸入先の変動性(変動係数、CV)を比較すると、ブラジル(CV: 0.574)と英国(CV: 0.421)の変動が最も大きく、安定的な供給先とは言い難い。一方、モロッコ(CV: 0.086)とタイ(CV: 0.116)は極めて安定した供給源であり、EU の調製魚介類の主要サプライチェーンにおける重要な基盤を形成している。中国(CV: 0.335)とエクアドル(CV: 0.212)は中程度の変動性を示す。
3.2 2022年に複数の価格ショックが同時発生
2022年には、主要輸入先からの価格ショックが3件同時に検出された。フィリピンからの輸入価格は異常値36.7シグマ、前年比+29.9%の上昇を記録し、エクアドル(異常値18.9シグマ、+26.3%)、中国(異常値13.2シグマ、+24.6%)も同様の価格急騰を経験した。これらはロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的なエネルギーコストの高騰、供給チェーンの混乱、および飼料価格の上昇が複合的に影響した結果と考えられる。
| 供給国 | ショック種別 | 異常度(σ) | 前年比変化 | 対象年 | 金額シェア |
|---|---|---|---|---|---|
| フィリピン | 価格 | 36.7 | +29.9% | 2022年 | 4.4% |
| エクアドル | 価格 | 18.9 | +26.3% | 2022年 | 17.0% |
| 中国 | 価格 | 13.2 | +24.6% | 2022年 | 9.3% |
3.3 EU の輸出集中度は低下し、域内専門化は波羅的海諸国がリード
輸出のHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)は3,859(2015年)から3,396(2025年)へと12.0%低下し、輸出先の多角化が進行したことを示している。一方、輸入のHHIは624から687へと10.1%上昇しており、特定の供給国(特にエクアドル)への依存がやや高まっている。
域内の専門化度(RSCA)を見ると、リトアニア(RSCA: 0.501)、ラトビア(0.455)、デンマーク(0.454)が最も高い比較優位を示しており、ポーランド(0.356)とスペイン(0.337)がそれに続く。EU のCN 16 生産量は期間を通じて大幅な拡大を示しており(生産額で約878億ユーロに達する)、域内産業の競争力強化が貿易収支改善の背景にあることが裏付けられる。
結論
2015年から2025年にかけてのEU のCN 16 貿易は、いくつかの根本的な変化を経験した。第一に、輸出の成長は数量ではなく価格上昇によって主導されており、域内加工業者の付加価値化戦略が成果を上げたことを示唆している。第二に、貿易収支は大幅な赤字からほぼ均衡へと改善し、純輸入依存度は21.8%から2.4%に低下した。これはEU の水産加工・食肉加工産業の域内生産能力が飛躍的に強化されたことを意味する。第三に、貿易パートナーの構造は大きく変化し、エクアドルや中国が台頭する一方で英国やブラジルの比重が低下した。特に英国からの輸入減少はBrexit の影響を示唆するものである。2022年の世界的なエネルギーコスト高騰は、フィリピン・エクアドル・中国からの輸入価格に同時にショックを与え、供給チェーンの脆弱性を露呈したが、EU は域内生産力の強化によりこれらのショックを吸収する能力を高めている。今後は、地政学的リスクの高まりや持続可能性規制の強化を背景に、輸入先の多角化と域内生産基盤のさらなる強化が課題となるだろう。