Market evolution: 穀物調製品 (CN 19) — 2015–2025
はじめに
本報告書は、EU(欧州連合)のCN 19(穀物、粉、デンプンまたは牛乳の調製品;菓子製品)に関する貿易の推移を、2015年から2025年にかけて分析するものである。CN 19には、パン・菓子類(1905)、麦芽エキス・粉類調製品(1901)、パスタ(1902)、膨化・焙焼穀物(1904)、タピオカ(1903)が含まれる。この期間を通じて、EUは圧倒的な純輸出国であり続け、輸出額は133億ユーロから233億ユーロへと74.9%増加した。本報告書では、総合概要および国別データに基づき、主要な市場動向を解説する。
1. 輸出主導の貿易拡大と純輸出国としての地位強化
EUの穀物調製品市場は輸出主導の成長軌道を描いている
EUのCN 19輸出額は、2015年の133億ユーロから2025年に233億ユーロへと74.9%増加し、同期間の輸入額は26億ユーロから45億ユーロへと72.6%増加した。これにより、貿易黒字は107億ユーロから189億ユーロへと拡大(+75.4%)し、EUは穀物調製品においてますます強力な純輸出国となっている。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸出額(百万ユーロ) | 13,349 | 23,346 | +74.9% |
| 輸出数量(千トン) | 4,738 | 6,270 | +32.3% |
| 輸出単価(ユーロ/トン) | 2,817 | 3,724 | +32.2% |
| 輸入額(百万ユーロ) | 2,601 | 4,490 | +72.6% |
| 輸入数量(千トン) | 1,156 | 1,679 | +45.2% |
| 輸入単価(ユーロ/トン) | 2,250 | 2,674 | +18.9% |
| 貿易黒字(百万ユーロ) | 10,747 | 18,856 | +75.4% |
価格上昇が輸出額の成長を大きく牽引している
数量の増加(+32.3%)に対し、輸出額の増加(+74.9%)がはるかに大きいことから、単価上昇の貢献が大きいことが分かる。輸出単価は2,817ユーロ/トンから3,724ユーロ/トンへと32.2%上昇した。特に2021年から2023年にかけて顕著な価格上昇が観察され、パンデミック後の世界的な穀物価格高騰とエネルギー・物流コストの上昇が反映されたと推測される。なお、EUの輸出単価(3,724ユーロ/トン)は輸入単価(2,674ユーロ/トン)を約39%上回っており、高付加価値製品の輸出構造が示唆される。
純輸入依存度は大幅に低下し、自立性が向上した
純輸入依存度の推移を見ると、2015年の-4.2%から2025年には-16.3%へと大幅に低下(マイナスは純輸出を示す)。期間中の最低値は-18.5%(2023年頃)に達し、EUの純輸出国としての立場が強化されたことを示している。同時に、貿易集約度は7.9%から20.0%へ、輸出指向性は6.0%から17.3%へとそれぞれ拡大し、EU産業の国際市場への統合度が高まっている。
2. 貿易相手国の変動と2022年の価格ショック
イギリスはEU最大の貿易相手として圧倒的な存在感を維持している
国別貿易データによれば、輸出先ではイギリスが2015年の34億ユーロから2025年に61億ユーロへと83.4%増加し、EU輸出全体の約26%を占める最大の輸出先である。輸入元でもイギリスは14億ユーロから17億ユーロへと22.2%増加し、依然として最大の輸入元であるが、そのシェアは相対的に低下傾向にある。ブレグジット後の貿易摩擦にもかかわらず、EUとイギリス間の穀物調製品貿易は堅調に推移している。
| 輸出先 | 2015年(百万ユーロ) | 2025年(百万ユーロ) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| イギリス | 3,351 | 6,144 | +83.4% |
| アメリカ | 838 | 2,535 | +202.5% |
| 中国 | 1,398 | 2,686 | +92.1% |
| スイス | 584 | 1,088 | +86.2% |
| ノルウェー | 425 | 677 | +59.1% |
| サウジアラビア | 702 | 743 | +5.8% |
| ロシア | 426 | 378 | -11.4% |
| 輸入元 | 2015年(百万ユーロ) | 2025年(百万ユーロ) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| イギリス | 1,399 | 1,709 | +22.2% |
| トルコ | 125 | 355 | +183.9% |
| スイス | 360 | 322 | -10.5% |
| 中国 | 108 | 322 | +199.1% |
| タイ | 109 | 215 | +97.7% |
| ウクライナ | 35 | 251 | +618.9% |
| ベトナム | 59 | 171 | +191.0% |
アメリカと新興アジア市場への輸出が急速に拡大している
輸出先の中では、アメリカへの輸出が8億ユーロから25億ユーロへと+202.5%と最も高い成長率を示した。これは、EUの高品質ベーカリー製品やパスタ製品に対する米国市場の需要拡大を反映している可能性がある。中国への輸出も+92.1%と堅調である。一方、ロシアへの輸出は-11.4%と減少しており、2014年以降の制裁措置の影響と見られる。
トルコ、ウクライナ、アジアからの輸入が顕著に増加している
輸入元ではウクライナからの輸入が3,500万ユーロから2億5,100万ユーロへと+618.9%と突出した増加率を示しており、EU・ウクライナ連合協定(2017年発効)による貿易自由化の効果が顕著である。トルコ(+183.9%)、中国(+199.1%)、ベトナム(+191.0%)からの輸入も大きく増加しており、EU市場におけるアジア・中東からの安価なパスタ製品や穀物調製品の供給拡大が読み取れる。輸入集中度(HHI)は3,166から1,739へと-45.1%低下し、供給源が多角化していることを裏付けている。
2022年に複数の価格ショックが観察された
ボラティリティと供給ショックの分析によれば、2022年を中心に複数の価格ショックが発生している。
| ショック発生国 | フロー | 異常度 | 価格変動 | 価値シェア |
|---|---|---|---|---|
| 南アフリカ | 輸出 | 56.1 | +44.4% | 0.6% |
| セルビア | 輸入 | 10.3 | +17.3% | 3.2% |
| UAE | 輸出 | 7.8 | +27.7% | 2.1% |
これらはロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的な穀物価格・エネルギーコストの急騰と密接に関連していると考えられる。特に南アフリカ向け輸出の価格異常度(56.1)は際立って高く、輸送コストの急騰や供給チェーンの混乱が反映されたものと推測される。ボラティリティ指標を見ると、ウクライナ(CV 0.41)、中国(CV 0.32)、ベトナム(CV 0.28)など新興供給国の変動係数が高く、これらの取引先には価格リスクがつきまとう。
3. 製品セグメントとEU域内産業構造の変化
パン・菓子類(1905)と麦芽エキス・粉類調製品(1901)が輸出の2本柱である
製品セグメント別内訳によれば、輸出における最大セグメントはパン・菓子類(1905)であり、2025年に106億ユーロ(輸出全体の約46%)を占める。2015年の49億ユーロから+116%と倍増に近い成長を遂げた。単価も2,984ユーロ/トンから4,331ユーロ/トンへと45%上昇し、高付加価値化が進んでいる。第二の柱は麦芽エキス・粉類調製品(1901)で、2025年に90億ユーロ(約38%)。こちらは単価が4,561ユーロ/トンと全セグメント中最高であり、乳児用食品や特殊食品調製品の輸出を含む高品質セグメントの存在がうかがえる。
パスタ(1902)は量・額ともに成長する成長セグメントである
パスタ(1902)の輸出は2015年の14億ユーロから2025年に27億ユーロへと+84.6%増加し、輸出数量も112万トンから154万トンへと+37.8%拡大した。輸入についても、パスタの輸入数量は22.6万トンから44.3万トンへと倍増に近く(+96.1%)、EU市場におけるパスタ需要の拡大が内外の貿易を同時に押し上げている。イタリア(RSCA 0.27、EU内最上位の専門化指標)の存在が輸出を牽引している一方、トルコや中国からのパスタ輸入も急増している。
膨化・焙焼穀物(1904)は輸出が横ばい・微減で構造的な転換期にある
専門化指標によれば、EU内で最も穀物調製品に特化した国はラトビア(RSCA 0.314)、イタリア(0.272)、ギリシャ(0.247)、クロアチア(0.229)、ポーランド(0.164)である。一方、マルタ(RSCA -0.977)やキプロス(-0.668)は最も非特化であり、小規模島嶼国では域外からの調達に大きく依存している。
EU域内の生産量は2015年の354億kgから2025年に482億kgへと+36.4%増加し、生産額は649億ユーロから1,302億ユーロへと+100.6%と倍増した。生産額の伸びが数量の伸びを大きく上回ることは、EU域内における穀物調製品産業の高付加価値化と価格上昇を示している。
EU内主要輸出国はオランダ、イタリア、フランス、ドイツの4カ国である
EU内輸出国別ランキングでは、オランダ(35億ユーロ、+41.7%)、イタリア(42億ユーロ、+104.6%)、フランス(29億ユーロ、+72.7%)、ドイツ(29億ユーロ、+73.5%)が上位を占める。イタリアとベルギー(+138.8%)、ポーランド(+208.9%)の成長率が際立っており、特にポーランドはEU内の生産拠点として急速に台頭している。輸入面ではアイルランドが最大(8.6億ユーロ)であり、イギリスとの地理的・歴史的結びつきが反映されている。
おわりに
2015年から2025年にかけて、EUのCN 19(穀物調製品)市場は輸出主導の堅実な成長を遂げた。貿易黒字は約2倍に拡大し、純輸出国としての地位はますます強固となっている。この成長は、数量の増加(+32.3%)に加え、単価上昇(+32.2%)による高付加価値化が二重に寄与した結果である。
貿易構造の観点では、2つの重要なシフトが見られる。第1に、輸入面での供給源の多角化である。HHI指数が45%低下し、トルコ、ウクライナ、アジア諸国からの輸入が急増している。第2に、2022年の世界的な穀物価格危機がもたらした価格ショックであり、特に新興市場向け輸出に顕著な影響を与えた。
製品面では、パン・菓子類(1905)と粉類調製品(1901)が輸出の約84%を占める二極構造が鮮明であり、EU域内の生産額は倍増して1,300億ユーロに達した。イタリア、オランダ、フランス、ドイツが輸出の中心であり、ポーランドの急速な台頭も注目される。今後は、持続的な高付加価値化戦略の維持と、新興市場の変動リスクへの対応が課題となるだろう。