Market evolution: 鉱石スラグ灰 (CN 26) — 2015–2025
序論
CN 26は「鉱石、スラグおよび灰」を包括する品目であり、鉄鉱石(2601)、銅鉱石(2603)、ボーキサイト(2606)、亜鉛鉱石(2608)、粒状スラグ(2618)など21のサブカテゴリーを含む。EUはその製造業基盤を支えるため、これらの原材料を大量に域外から輸入している。
本レポートは2015年から2025年までのEUのCN 26貿易動向を分析し、一般的な概要および製品別内訳のデータに基づき、三つの主要なダイナミクスを特定・解釈する。
第1部:価格主導の貿易額拡大と構造的貿易赤字の深化
貿易額の拡大は数量ではなく価格の上昇がけん引した
2015年から2025年にかけて、EUのCN 26輸出額は26.1億ユーロから51.3億ユーロへと+97.1%増加したが、輸出数量は1,578万トンから1,567万トンへとほぼ横ばい(-0.7%)であった。すなわち、輸出額の拡大は単価上昇(165ユーロ/トン→328ユーロ/トン、+98.6%)にほぼ完全に起因する。
輸入についても同様の構造が確認できる。輸入額は182.6億ユーロから266.5億ユーロへ+46.0%増加したが、数量は1億3,610万トンから1億270万トンへと-24.5%減少した。輸入単価は134ユーロ/トンから260ユーロ/トンへ+94.0%の上昇を記録している。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸出額 | 26.1億ユーロ | 51.3億ユーロ | +97.1% |
| 輸出数量 | 1,578万トン | 1,567万トン | -0.7% |
| 輸出単価 | 165ユーロ/t | 328ユーロ/t | +98.6% |
| 輸入額 | 182.6億ユーロ | 266.5億ユーロ | +46.0% |
| 輸入数量 | 1億3,610万トン | 1億270万トン | -24.5% |
| 輸入単価 | 134ユーロ/t | 260ユーロ/t | +94.0% |
鉄鉱石から銅鉱石への構造的シフトが進行した
製品別内訳によれば、CN 26輸入の構造は大きく変化した。2015年には鉄鉱石(CN 2601)が最大の輸入品目(58.97億ユーロ)であったが、2025年には銅鉱石(CN 2603)が95.76億ユーロに達し、64.76億ユーロの鉄鉱石を凌駕した。
| 品目 | 2015年 輸入額 | 2025年 輸入額 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 鉄鉱石 (2601) | 59.0億ユーロ | 64.8億ユーロ | +9.8% |
| 銅鉱石 (2603) | 56.2億ユーロ | 95.8億ユーロ | +70.4% |
| 亜鉛鉱石 (2608) | 14.9億ユーロ | 22.4億ユーロ | +50.9% |
| ボーキサイト (2606) | 7.3億ユーロ | 6.7億ユーロ | -8.3% |
| チタン鉱石 (2614) | 5.2億ユーロ | 3.7億ユーロ | -28.0% |
数量面では、鉄鉱石輸入量が1億482万トンから7,100万トンへ-32.3%減少し、チタン鉱石(-44.7%)やマンガン鉱石(-47.1%)の減少も顕著であった。一方、銅鉱石の数量減少幅は-13.5%にとどまり、単価が1,380ユーロ/トンから2,718ユーロ/トンへと+96.9%上昇したことが、金額面での銅鉱石首位をもたらした主因である。
貿易赤字は拡大したが、純輸入依存度は改善に向かっている
貿易収支は2015年の▲156.5億ユーロから2025年の▲215.2億ユーロへと▲37.5%悪化した。しかし純輸入依存度は76.8%から67.9%へと11.6%ポイント低下しており、域内生産の増大が輸入への依存を緩和し始めたことが示唆される。また貿易密度は80.1%から85.3%へ上昇しており、EU経済全体における鉱石スラグ灰の交易圧が高まっている。
第2部:ロシアからの脱却と供給源の劇的な再編
ロシアからの鉱石輸入はほぼ消滅した
パートナー別のデータによれば、ロシア連邦からのCN 26輸入額は2015年の4.46億ユーロから2025年には0.04億ユーロへと▲99.0%の激減を記録した。この急落は2022年のロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴うEU制裁の影響と整合的である。ボラティリティ指標において、ロシアの変動係数(CV)は0.738と全主要パートナー中最も高く、調達の不安定性が際立っていた。
カナダ、南アフリカ、リベリアが新たな主要供給源として台頭した
ロシアの脱落を補う形で、複数の供給源が急成長を遂げた。
| 供給国 | 2015年 輸入額 | 2025年 輸入額 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| ブラジル | 40.9億ユーロ | 41.9億ユーロ | +2.6% |
| カナダ | 17.2億ユーロ | 40.2億ユーロ | +133.8% |
| 南アフリカ | 10.5億ユーロ | 24.9億ユーロ | +135.8% |
| ウクライナ | 9.6億ユーロ | 14.0億ユーロ | +46.0% |
| リベリア | 0.8億ユーロ | 5.3億ユーロ | +529.1% |
| ロシア | 4.5億ユーロ | 0.04億ユーロ | -99.0% |
カナダと南アフリカはロシアの代替供給源としてそれぞれ+133.8%、+135.8%の輸入増を達成し、リベリアは+529.1%と最も急成長した。一方、輸入のHHI集中度指数は950から857へ-9.8%低下しており、供給源がやや多角化したことが確認できる。
輸出における中国依存の強まりと集中リスクの高まり
輸出面では逆の傾向が見られる。EU最大のCN 26輸出先である中国向け輸出額は9.1億ユーロから21.7億ユーロへと+139.3%増加した。輸出のHHI集中度指数は1,694から2,168へ+28.0%上昇し、輸出先の集中が進んだ。
| 輸出先 | 2015年 輸出額 | 2025年 輸出額 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 9.1億ユーロ | 21.7億ユーロ | +139.3% |
| 英国 | 2.2億ユーロ | 3.4億ユーロ | +51.2% |
| サウジアラビア | 1.7億ユーロ | 3.1億ユーロ | +78.3% |
| トルコ | 1.1億ユーロ | 1.5億ユーロ | +33.8% |
| カタール | 1.1億ユーロ | 1.8億ユーロ | +60.9% |
供給ショックのデータでは、サウジアラビア向け輸出の2021年の価格ショック(異常度22.5、変化+62.8%)や、ギニアからの輸入における2022年の価格ショック(異常度12.5、変化+29.8%)が検出されており、地政学的リスクが価格に直接反映されていることが示唆される。
第3部:域内生産の爆発的拡大とセグメント別ダイナミクスの変化
EU域内生産は数量で約7.5倍、金額で約19倍に急拡大した
域内生産量のデータは劇的な拡大を示している。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 生産量 | 722.8万トン | 4,634.3万トン | +541.2% |
| 生産額 | 5.1億ユーロ | 99.8億ユーロ | +1,845.0% |
| 輸出傾向 | 11.9% | 47.2% | +295.3% |
生産額の増加率(+1,845%)が生産量の増加率(+541%)を大きく上回っており、高付加価値品目の生産拡大が示唆される。輸出傾向は11.9%から47.2%へと約4倍に上昇し、EUが域内で生産した鉱石・スラグの輸出比率が大幅に高まったことを示している。
報告者別のデータによれば、ブルガリア(+288.2%)、フィンランド(+123.4%)、スウェーデンの輸入が急増し、また輸出面ではスペイン(+144.1%)、ブルガリア(+233.1%)、フィンランド(+222.4%)が大きく伸びた。
粒状スラグの輸入が爆発的に増加し、セグメント構造が変化した
輸入セグメントで最も劇的な変化を示したのは粒状スラグ(CN 2618)である。
| 品目 | 2015年 数量 | 2025年 数量 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 粒状スラグ (2618) | 15.6万トン | 596.1万トン | +3,720% |
| 鉄鉱石 (2601) | 10,482万トン | 7,100万トン | -32.3% |
| ボーキサイト (2606) | 1,457万トン | 1,069万トン | -26.6% |
| マンガン鉱石 (2602) | 127.5万トン | 67.4万トン | -47.1% |
| チタン鉱石 (2614) | 130.3万トン | 72.0万トン | -44.7% |
粒状スラグの輸入数量は15.6万トンから596.1万トンへと38倍以上に拡大し、金額も483万ユーロから2.26億ユーロへと+4,582%増加した。一方で鉄鉱石、マンガン鉱石、チタン鉱石といった伝統的な鉱石の輸入量は大幅に減少した。専門化指数では、EU域内でブルガリア(RSCA 0.85、RCA 12.1)、スウェーデン(RSCA 0.76、RCA 7.3)、フィンランド(RSCA 0.66、RCA 4.9)が最も比較優位を示している。
価格変動性の高まりと供給ショックのリスクが顕在化している
ボラティリティ分析によれば、輸入側ではロシア(CV 0.74)、トルコ(CV 0.51)、リベリア(CV 0.49)、ブラジル(CV 0.42)が高い変動性を示した。輸出側ではシンガポール(CV 1.17)、バーレーン(CV 0.86)、イスラエル(CV 0.79)が突出している。
主要な価格ショックとしては以下の3事例が検出された。
| パートナー | 種別 | フロー | 異常度 | 価格変化 | 時点 | 金額シェア |
|---|---|---|---|---|---|---|
| サウジアラビア | 価格 | 輸出 | 22.5 | +62.8% | 2021年 | 9.6% |
| ギニア | 価格 | 輸入 | 12.5 | +29.8% | 2022年 | 3.1% |
| エジプト | 価格 | 輸出 | 10.8 | +92.2% | 2021年 | 4.5% |
結論
2015年から2025年にかけてのEU・CN 26貿易は、三つの主要な構造変化を経験した。
第一に、貿易額の拡大はほぼ完全に価格上昇に起因するものであり、輸出入ともに数量は横ばい乃至減少であった。貿易赤字は▲215億ユーロに拡大したが、域内生産の急拡大に伴い純輸入依存度は76.8%から67.9%へ低下した。
第二に、2022年の地政学的ショックを契機とした供給源の再編が顕著であった。ロシアからの輸入は99%消滅し、カナダ(+133.8%)、南アフリカ(+135.8%)、リベリア(+529.1%)が代替供給源として台頭した。輸入の集中度は低下したが、輸出面では中国への依存が強まり、輸出HHIは2,168に上昇した。
第三に、EU域内生産が数量で+541%、金額で+1,845%と爆発的に拡大し、輸出傾向が12%から47%へと上昇した。粒状スラグの輸入が38倍に急増する一方、鉄鉱石やマンガン鉱石の伝統的鉱石輸入は大幅に縮小した。銅。銅鉱石は鉄鉱石を抜いて最大の輸入品目(金額ベース)となった。
今後の課題は、輸出先の中国集中リスク、ロシア脱却後の供給源安定性、そして銅鉱石・粒状スラグに依存する新たな構造的脆弱性への対応にある。