Market evolution: 不織布・フェルト・特殊糸・ロープ類 (CN 56) — 2015–2025
はじめに
本報告書は、EUの関税分類コード56(不織布、フェルト、特殊糸、紐、コード、ロープ等)に関する2015年から2025年までの域外貿易動向を分析するものである。この期間を通じて、EUはCN 56カテゴリーにおいて一貫して純輸出国の地位を維持してきたが、その構造は大きく変化している。輸出は付加価値化が進む一方で輸入が急拡大し、貿易黒字は縮小傾向にある。本報告では、①量と価値の乖離に表れる構造変化、②主要貿易相手国の変動と供給源の集中化、③品目別構成と域内生産の拡大の3つの観点から、この市場の主要なダイナミクスを解説する。
第1章: 輸出の付加価値化と輸入急増による貿易黒字の縮小
輸出は数量減少にもかかわらず金額が増加し高付加価値化が進んだ
EU のCN 56輸出は2015年の約30.9億ユーロから2025年には約36.8億ユーロへと+18.9%増加した。しかし同時に輸出数量は629,330トンから554,611トンへと▲11.9%減少している。これは輸出単価が4,914ユーロ/トンから6,631ユーロ/トンへと+34.9%上昇したことを意味しており、EUがより高付加価値な製品へシフトしていることを示唆する。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸出額 | 30.9億€ | 36.8億€ | +18.9% |
| 輸出数量 | 629,330 t | 554,611 t | ▲11.9% |
| 輸出単価 | 4,914 €/t | 6,631 €/t | +34.9% |
輸入は金額・数量ともに急拡大し、純輸出依存度は縮小した
一方、域外からの輸入は金額で16.7億ユーロから27.2億ユーロへ+62.9%、数量では380,548トンから636,406トンへ+67.2%と、輸出を大きく上回るペースで拡大した。輸入単価は4,389ユーロ/トンから4,277ユーロ/トンへ▲2.6%とわずかに低下しており、量的拡大が輸入増の主因であったことが分かる。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸入額 | 16.7億€ | 27.2億€ | +62.9% |
| 輸入数量 | 380,548 t | 636,406 t | +67.2% |
| 輸入単価 | 4,389 €/t | 4,277 €/t | ▲2.6% |
貿易黒字は3分の1近く縮小した
この輸出入の非対称的な変化を受け、CN 56の貿易黒字は2015年の14.2億ユーロから2025年には9.6億ユーロへと▲32.8%縮小した。純輸入依存度は依然として負の値(EUが純輸出国)を維持しているが、▲13.6%から▲12.6%へと7.1ポイント改善(黒字幅の縮小)しており、EU市場への域外製品の浸透が着実に進んでいる。貿易集約度は29.7%から48.2%へと大幅に上昇し、輸出指向性も22.4%から35.6%へと高まり、CN 56セクター全体の国際化が深化している。
第2章: 中国・トルコの台頭と輸入供給源の急速な集中化
輸入の地理的集中度は急上昇し、特に中国とトルコの存在感が拡大した
HHI集中指数(輸入・金額ベース)は2015年の1,188から2025年には1,703へと+43.4%も上昇した。これは輸入が少数の相手国に集中しつつあることを示す顕著な動きである。特に数量ベースのHHIは1,352から2,589へと+91.5%と倍近い急上昇を示しており、量的供給源の集中が一層進んでいる。
主要輸入相手国の中で、中国とトルコが突出した成長を遂げた:
| 輸入相手国 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 3.63億€ | 8.90億€ | +145.1% |
| トルコ | 1.84億€ | 4.78億€ | +160.0% |
| インド | 0.28億€ | 0.63億€ | +121.2% |
| イスラエル | 0.69億€ | 0.97億€ | +39.5% |
| アメリカ | 2.88億€ | 3.32億€ | +15.1% |
| 英国 | 2.33億€ | 1.69億€ | ▲27.6% |
| サウジアラビア | 0.34億€ | 0.13億€ | ▲62.4% |
中国はEUのCN 56最大の輸入相手国としての地位をさらに強固にし、2015年の21.7%から2025年には約32.7%へとシェアを拡大した。トルコも2位に浮上し、11.0%から17.6%へとシェアを伸ばしている。これにより、上位2か国で輸入の約半分を占める構造が形成された。
輸出は地理的に分散した構造を維持している
輸出のHHI集中指数は695から667へと小幅に低下(▲4.0%)しており、輸出市場の分散化が維持されている。主要輸出先では英国(5.09億€、+8.6%)と米国(6.10億€、+34.8%)が上位2か国を占め、スイス(2.22億€、+14.3%)やモロッコ(1.41億€、+84.4%)への輸出も順調に増加した。一方、ロシアへの輸出は1.84億€から0.70億€へと▲61.7%と大きく減少しており、2022年以降の地政学的要因が反映されているとみられる。
価格ショックとボラティリティは特定国に集中している
供給ショック分析によれば、2022年に複数の価格ショックが検出された。インドからの輸入では異常値14.0、価格シフト+14.3%のショックが観測され、ウクライナへの輸出では異常値8.8、価格シフト+16.8%、メキシコへの輸出では異常値4.1、価格シフト+28.1%のショックが記録された。これらは2022年の世界的なエネルギーコスト高騰やサプライチェーン混乱と関連している可能性が高い。
第3章: 不織布(CN 5603)の圧倒的優位と域内生産の拡大
不織布(CN 5603)が輸出入の双方で最大品目を占めている
品目別内訳を見ると、不織布(CN 5603)が輸入・輸出の両方で圧倒的なシェアを持つ。2025年の輸入におけるCN 5603の数量シェアは約60.9%(387,826トン/636,406トン)に達し、金額ベースでも約60.1%(16.4億€/27.2億€)を占めている。輸出では数量で約65.5%(363,023トン/554,611トン)、金額で約59.8%(22.0億€/36.8億€)と、両方向においてCN 5603がセクター全体の動向を規定している。
| 品目 | 輸入数量(2025年) | 輸出数量(2025年) | 説明 |
|---|---|---|---|
| 5603 | 387,826 t | 363,023 t | 不織布 |
| 5602 | 66,559 t | 24,589 t | フェルト |
| 5607 | 51,511 t | 71,970 t | 紐・コード・ロープ |
| 5608 | 54,120 t | 26,657 t | 結節ネット |
| 5601 | 32,991 t | 48,660 t | ウエッディング |
| 5609 | 27,850 t | 4,797 t | 紐・コード等製品 |
不織布セクターでは輸入の量的拡大と輸出の付加価値化が鮮明である
CN 5603の輸入数量は2015年の238,991トンから2025年には387,826トンへと+62.3%増加し、輸入単価は4,181ユーロ/トンから4,222ユーロ/トンとほぼ横ばいであった。一方、輸出数量は437,220トンから363,023トンへと▲16.9%減少したが、輸出単価は4,441ユーロ/トンから6,062ユーロ/トンへと+36.5%上昇した。これはEUの不織布産業が高品質・高単価品への特化を進めていることを示す重要な兆候である。
フェルト(CN 5602)では輸入数量が31,122トンから66,559トンへと倍増(+113.9%)しており、またネット類(CN 5608)の輸入も26,105トンから54,120トンへと+107.3%と大幅に増加している。ロープ・コード類(CN 5607)は輸出数量71,970トンに対し輸入51,511トンとEUが依然として純輸出国だが、輸入は32,135トンから+60.3%と大幅に増加している。
EU域内生産は量・値ともに大きく拡大し、特化国には中小加盟国が多い
域内生産は数量で20.9億kgから28.4億kg(+35.7%)、金額では56.8億ユーロから103.4億ユーロ(+82.1%)と、輸出以上に高い成長率を示している。CN 56カテゴリーでの比較優位(RSCA)が最も高いのはルクセンブルク(RSCA: 0.772、RCA: 7.77)であり、次いでギリシャ(0.482)、スロベニア(0.370)、リトアニア(0.350)、ポルトガル(0.319)と続く。一方、最も非特化な国はマルタ(RSCA: ▲0.999)、キプロス(▲0.994)、アイルランド(▲0.923)である。特化度が高いのは主に小規模・中規模のEU加盟国であり、大規模経済国はより多角的な生産構造を持つことが分かる。
EUの主要輸出国としてドイツ(8.47億€、▲1.6%)が依然として最大だが横ばいであるのに対し、スペイン(2.60億€、+59.6%)、ルクセンブルク(2.55億€、+45.0%)、ポーランド(1.99億€、+82.4%)といった中東欧・南欧の加盟国が急速に輸出を拡大している点も注目に値する。
結論
CN 56(不織布、フェルト、特殊糸、ロープ類)に関するEUの域外貿易は、2015年から2025年にかけて3つの主要な構造変化を示している。
第一に、EUの輸出は数量の減少を上回る価格上昇により金額を増加させており、高付加価値・高品質品への特化が進んでいる。これは域内生産が量・値ともに大きく拡大していることと整合的であり、EU産業の競争力が高単価セグメントに集中していることを示唆する。
第二に、輸入は中国とトルコを中心に急拡大し、輸入供給源の集中度(HHI)は43%以上上昇した。特に中国からの輸入は2.5倍に増加しており、CN 56セクターにおけるEUの対中依存度の高まりは、貿易政策上の重要な課題となりうる。
第三に、EUは依然としてCN 56の純輸出国ではあるが、貿易黒字は約3分の1に縮小し、特に2022年のエネルギーコスト高騰に伴う価格ショックが複数の貿易相手国で検出された。貿易集約度と輸出指向性の大幅な上昇は、このセクターの国際化がさらに進展していることを示しており、今後の地政学的リスクやサプライチェーンの再編に伴う変動に注意が必要である。