Explore live data

Market evolution: 蚕糸 (CN 50) — 2015–2025

はじめに

本報告書は、EUの蚕糸(CNコード50)に関する域外貿易の動向を、2015年から2025年まで分析するものである。CN 50は、繭(5001)、生糸(5002)、くず繭・廃糸(5003)、絹糸(5004)、廃糸紡績糸(5005)、小売用絹糸(5006)、絹織物(5007)の7つのサブコードを包括する統括見出しである。

この11年間のEU蚕糸貿易は、輸出入ともに明確な縮小傾向を示している。輸出額は約39%減少し、輸入額も約15%減少した。同時に、ネット輸入依存度は8.3%から24.9%へと大幅に上昇しており、EU域内の蚕糸産業が直面する構造的な変化と脆弱性の深化が読み取れる。

以下では、貿易量の縮小と構造変化、主要取引相手国への集中と中国依存、そして価格変動と脆弱性の3つの観点から動向を分析する。


1. 貿易量の顕著な縮小とEU域内産業の構造変化

輸出入ともに大幅な数量減少が続いている

EUの蚕糸貿易は、2015年から2025年にかけて輸出入ともに著しい縮小を示している。

指標 2015年 2025年 変化率
輸入額 3億5,482万€ 3億2,068万€ -14.9%
輸入数量 5,943 t 4,480 t -24.6%
輸出額 2億390万€ 1億2,486万€ -38.8%
輸出数量 1,537 t 795 t -48.3%
貿易収支 -1億5,092万€ -1億7,721万€ -17.4%(赤字拡大)

輸出の減少率(額で-38.8%、数量で-48.3%)が輸入の減少率(額で-14.9%、数量で-24.6%)を大きく上回っており、EU域内の蚕糸加工産業の競争力低下が鮮明となっている。貿易赤字は拡大傾向にあり、2022年には最大の2億1,565万€に達した。

絹織物(CN 5007)の縮小が全体を牽引

品目別内訳を見ると、EUの蚕糸貿易の中心は絹織物(CN 5007)と生糸(CN 5002)である。

輸入の品目別動向(単位:トン):

品目 2015年 2025年 変化率
5002 生糸 1,530 t 1,505 t -1.7%
5007 絹織物 2,155 t 1,060 t -50.8%
5003 くず繭・廃糸 1,040 t 777 t -25.3%
5004 絹糸 672 t 371 t -44.8%
5005 廃糸紡績糸 482 t 728 t +51.0%

輸出の品目別動向(単位:トン):

品目 2015年 2025年 変化率
5007 絹織物 1,154 t 528 t -54.2%
5004 絹糸 119 t 90 t -24.4%
5005 廃糸紡績糸 70 t 58 t -17.5%
5003 くず繭・廃糸 66 t 39 t -41.0%
5002 生糸 14 t 35 t +155.7%

絹織物は輸出入ともに最大品目であり、その大幅な減少(輸入数量で-50.8%、輸出数量で-54.2%)が全体の縮小を最も大きく牽引している。一方で、廃糸紡績糸(CN 5005)の輸入が51%増加している点は注目に値する。低価格帯の素材需要が高まり、EU域内の紡績工程におけるコスト競争力への志向がうかがえる。

EU域内生産は数量増・価値減の構造的転換

EU域内の生産データによれば、生産数量は3,128万kgから3,875万kgへと23.9%増加しているが、生産価値は7億2,450万€から4億6,600万€へと35.7%減少している。これは、低付加価値品へのシフト、あるいは価格競争の激化を示唆している。


2. 中国への一層の依存深化と取引相手国の構造変化

中国の圧倒的な供給シェアが固定化

輸入相手国別データによれば、中国はEU蚕糸輸入の圧倒的な主要相手国である。

相手国 2015年輸入額 2025年輸入額 変化率
中国 2億8,045万€ 2億4,946万€ -11.1%
インド 2,152万€ 1,212万€ -43.7%
英国 1,129万€ 1,124万€ -0.5%
ブラジル 1,128万€ 851万€ -24.6%
ベトナム 825万€ 378万€ -54.2%
チュニジア 334万€ 299万€ -10.4%
タイ 164万€ 220万€ +34.2%

2025年時点では、中国からの輸入はEU全体の約82.5%を占めている。HHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)の輸入における値は6,315から6,874へと8.8%上昇しており、供給先の集中度がさらに高まっている。これは世界的な絹生産における中国の寡占的地位が、この期間にさらに強化されたことを示している。

インド(-43.7%)やベトナム(-54.2%)といった代替供給源からの輸入も大幅に減少しており、EUにとっての供給多様化は進んでいない。唯一、タイからの輸入が34.2%増加しているが、絶対額は220万€に過ぎない。

主要輸出先における地理的シフト

輸出相手国別データでは、輸出先の構造に大きな変化が生じている。

相手国 2015年輸出額 2025年輸出額 変化率
マダガスカル 4,445万€ 1,473万€ -66.9%
英国 2,577万€ 1,167万€ -54.7%
チュニジア 1,268万€ 2,352万€ +85.4%
米国 2,249万€ 1,230万€ -45.3%
ロシア 901万€ 231万€ -74.4%
モロッコ 1,421万€ 623万€ -56.2%
トルコ 519万€ 424万€ -18.4%

顕著な特徴は、マダガスカル(-66.9%)、ロシア(-74.4%)、モロッコ(-56.2%)への輸出が大きく減少している一方、チュニジアへの輸出が85.4%増加してEU最大の輸出先の一つに成長している点である。チュニジアは地中海沿岸の縫製拠点としての地位を強化しており、EUにおける委託加工(outward processing)のハブとしての役割が拡大している可能性がある。

EU域内における主要な輸出入担当国

EU域内各国別データによれば、イタリアが圧倒的な存在感を示している。

EU加盟国 2015年輸入額 2025年輸入額 2015年輸出額 2025年輸出額
イタリア 2億1,264万€ 1億7,011万€ 1億1,344万€ 9,624万€
ルーマニア 4,646万€ 4,699万€
フランス 3,345万€ 2,505万€ 6,638万€ 1,894万€
ドイツ 3,873万€ 1,432万€ 1,545万€ 349万€
スロベニア 9万€ 2,825万€

イタリアは輸出入ともにEU最大の拠点であり、コモ地方を中心とする絹織物産業の伝統を反映している。ただし、その輸出は-15.2%、輸入は-20.0%と縮小している。特筆すべきは、スロベニアが2015年の9万€から2025年の2,825万€へと急成長を見せていることである。一方、フランス(-71.5%)とドイツ(-77.4%)の輸出は劇的に減少しており、EUにおける蚕糸加工の地理的な再編が進行している。

特化係数(RSCA)による分析では、2025年時点でルーマニア(RSCA: 0.89、RCA: 16.6)、スロベニア(RSCA: 0.80、RCA: 9.0)、イタリア(RSCA: 0.72、RCA: 6.3)が最も特化度の高い国として挙げられている。


3. 2020年の打撃と2022年の価格ショック — 脆弱性の深化

COVID-19パンデミックによる歴史的打撃と回復の不完全さ

2020年はEU蚕糸貿易に歴史的な打撃をもたらした。輸入額は1億9,504万€(期間最低値)まで急落し、輸出額も9,929万€(期間最低値)にまで縮小した。

指標 2019年 2020年 変化率 2025年
輸入額 3億7,175万€ 1億9,504万€ -47.5% 3億2,068万€
輸出額 1億6,570万€ 9,929万€ -40.1% 1億2,486万€
輸入数量 4,852 t 3,542 t -27.0% 4,480 t
輸出数量 1,260 t 780 t -38.1% 795 t

2021年以降の回復は部分的なものにとどまり、2025年の輸入額は2019年水準の86.3%、輸出額は75.3%に留まっている。特に輸出の回復が遅れており、EUの蚕糸産業がパンデミック前の水準に完全には復帰できていないことが分かる。絹織物(CN 5007)の輸入数量は、2019年の1,603 tから2025年の1,060 tへと依然として33.9%低い水準にある。

2022年の中国からの輸入価格ショック

サプライショック分析によれば、2022年に中国からの輸入において異常度24.7の価格ショックが検出された。中国からの輸入単価は前年比で26.3%上昇し、生糸(CN 5002)の輸入単価は49,434 €/t(2021年)から64,738 €/t(2022年)へと急騰した。

これは、中国国内での原材料不足、COVID-19関連のサプライチェーン混乱、物流コストの上昇など複合的な要因に起因すると考えられる。この価格上昇は2023年以降も高水準で推移しており(63,201 €/t → 66,502 €/t → 63,296 €/t)、EUの加工業者にとって原材料コストの構造的な上昇圧力となっている。

主要取引相手国のボラティリティ(変動係数)を見ると、輸入では英国(CV: 0.54)、韓国(CV: 0.55)、ベトナム(CV: 0.48)が最も高い。一方、中国(CV: 0.16)は量的に最大のパートナーであるにもかかわらず比較的安定しているが、2022年の急騰はこの安定性が相対的なものに過ぎないことを示している。

ネット輸入依存度の急上昇と戦略的脆弱性

この11年間で最も深刻な構造変化は、ネット輸入依存度の急上昇である。

指標 2015年 2025年 変化率
ネット輸入依存度 8.3% 24.9% +198.9%
貿易集約度 46.5% 54.3% +16.9%
輸出指向性 27.1% 26.9% -0.8%

ネット輸入依存度が8.3%から24.9%へと約3倍に上昇していることは、EUが蚕糸において域内消費を満たす能力を急速に喪失しつつあることを意味する。貿易集約度も上昇しており、EU域内の蚕糸市場が域外貿易への依存度を高めている。2022年にはネット輸入依存度が最大の33.5%に達した

これは、EU域内の生産が数量的には増加しているものの、低付加価値品へのシフトにより輸出競争力を喪失し、高付加価値品の輸入への依存が深まっていることを反映している。


結論

EUの蚕糸貿易(CN 50)は、2015年から2025年にかけて明確な衰退期を迎えている。輸出入の数量・金額ともに大幅に縮小し、COVID-19パンデミックはその過程を加速させた決定的なイベントであった。2020年の急落後は部分的な回復が見られるものの、パンデミック前の水準には依然として届いていない。

構造的に最も懸念すべきは、中国への供給依存が80%超の水準で固定化され、輸入HHI指数がさらに上昇していることである。2022年の中国からの価格ショックは、この集中リスクの実態を如実に示した。ネット輸入依存度の8.3%から24.9%への上昇は、EU域内の蚕糸産業基盤の持続的な縮小を裏付けている。

一方で、チュニジアへの輸出増加やスロベニアの急成長、廃糸紡績糸(CN 5005)輸入の増加など、新たな動きも見られる。イタリアが依然としてEU最大の蚕糸取引拠点であるものの、フランスやドイツの輸出が劇的に減少する中、EU域内の蚕糸産業の地理的な再編が進行している。

持続可能な蚕糸産業の維持には、供給源の多様化、域内における付加価値の高い加工機能の強化、そしてサプライチェーンのレジリエンス向上が重要な課題となるであろう。

Generated on 2026-08-07. Figures reflect Eurostat data at generation time and do not include later revisions.

Auto-generated: this report is meant to accelerate, but not to replace, human analysis.

If you need advice on European trade policy, or representation for your interests in Brussels, please contact me at support@tradedashboard.eu. You can find my CV at this address.