Market evolution: 鉄鋼製品 (CN 73) — 2015–2025
Introduction
本報告書は、EUの関税コード73(鉄鋼製品)に関する域外貿易の動向を2015年から2025年まで分析するものである。CN 73は、ボルト・ナット類(7318)、溶接管(7306)、構造物部品(7308)、鋳造品(7325)、鍛造品・その他(7326)、シームレス管(7304)、および非電気式調理器具(7321)など、広範な鉄鋼加工品を包含する大分類である。
対象期間を通じて、EUの鉄鋼製品貿易は総額ベースで輸出が445億ユーロ、輸入が353億ユーロに達し、依然として黒字基調を維持しているものの、その黒字幅は大幅に縮小している。以下では、数量と価値の乖離、貿易相手国の急激な再編、およびEU産業の構造的脆弱性という3つの主要テーマを軸に、この10年間の市場動向を解説する。
1. 価格上昇が駆動する「価値の膨張」と数量の停滞
輸出は数量減少を価格上昇で補った
EUの鉄鋼製品輸出は、期間全体で金額が20.9%増加(368億→445億ユーロ)した一方、数量は19.9%減少(1,214万㌧→973万㌧)している。この乖離の主因は輸出単価の50.9%上昇(3,034ユーロ㌧→4,578ユーロ㌧)であり、特に2021〜2022年にかけて急騰した。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸出額(億ユーロ) | 368 | 445 | +20.9% |
| 輸出数量(万㌧) | 1,214 | 973 | −19.9% |
| 輸出単価(ユーロ/㌧) | 3,034 | 4,578 | +50.9% |
輸出数量の減少は製造拠点の海外移転やEU域内の需要構造変化を示唆する一方、単価上昇は高付加価値製品へのシフトと原材料・エネルギーコストの転嫁を反映している。
輸入は数量・金額ともに急拡大
輸入面では、金額が68.9%増加(209億→353億ユーロ)、数量が52.9%増加(846万㌧→1,294万㌧)と、輸出とは対照的な拡大トレンドが見られる。輸入単価の上昇率は10.5%(2,469→2,728ユーロ㌧)にとどまり、輸出単価(+50.9%)と大きく乖離している。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸入額(億ユーロ) | 209 | 353 | +68.9% |
| 輸入数量(万㌧) | 846 | 1,294 | +52.9% |
| 輸入単価(ユーロ/㌧) | 2,469 | 2,728 | +10.5% |
この単価差(輸出4,578対輸入2,728ユーロ㌧)は、EUが高付加価値製品を輸出し、比較的低単価の中間財・汎用品を輸入するという構造的特徴を示している。
2022年の価格ショックが市場を一変させた
2022年は全セグメントにわたって価格が急騰した。製品別データによれば、構造物部品(7308)の輸入単価は2015年の1,880ユーロ㌧から2022年の2,504ユーロ㌧へ33.2%上昇し、ボルト・ナット類(7318)の輸入単価は同3,282→3,965ユーロ㌧(20.8%上昇)となっている。これはロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格高騰、原材料不足、およびサプライチェーン混乱の直接的影響である。
生産額は数量を大幅に上回るペースで拡大
EU域内の生産データを見ると、生産数量は30.6%増(862億㌧→1,126億㌧)であるのに対し、生産額は208.5%増(550億→1,697億ユーロ)と、数量比で約7倍の増加率を示している。この乖離は、2022年の価格高騰がEU域内生産者の売上高を大幅に押し上げたことを意味する。
2. 貿易相手国の劇的再編:中国・トルコの台頭とロシアの消滅
中国はEU最大の輸入相手国として圧倒的な存在感を示した
国別輸入データによれば、中国からの輸入額は2015年の66億ユーロから2025年の140億ユーロへと112.5%増加し、最大の輸入相手国としての地位を確立した。ピークの2022年には155億ユーロに達した。
| 輸入相手国 | 2015年(億ユーロ) | 2025年(億ユーロ) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 66 | 140 | +112.5% |
| トルコ | 16 | 45 | +175.0% |
| イギリス | 23 | 28 | +26.0% |
| インド | 10 | 18 | +82.3% |
| 台湾 | 14 | 15 | +10.6% |
| ロシア | 22 | 0.4 | −98.0% |
| スイス | 17 | 16 | −3.2% |
中国とトルコの合計輸入額は2015年の82億ユーロから2025年の185億ユーロへと倍増し、EUの鉄鋼製品輸入における供給集中度を大幅に高めた。
ロシアからの輸入はほぼ消滅した
ロシアからの輸入額は2015年の22億ユーロから2025年には4百万ユーロへと98.0%減少し、事実上貿易が停止した。これは2022年以降のEUによる対露制裁の直接的結果である。ボラティリティデータによれば、ロシアの輸入における変動係数(CV)は0.98と極端に高く、2015年の22億ユーロから2022年には12億ユーロ、2025年には4百万ユーロへと急落した。
EUの輸出もロシア市場から撤退した
輸出データによれば、EUからロシアへの輸出も同様に90.1%減少(14億→1.3億ユーロ)している。ロシアの輸出におけるCVは0.81と高く、制裁による急激な取引停止を反映している。
輸出先は米国・英国・北欧に集中
輸出面では、米国(+49.1%)、英国(+18.5%)、スイス(+38.2%)、ノルウェー(+49.2%)が主要相手国として安定的に成長している。中でも米国への輸出は81億ユーロに達し、EU最大の輸出市場となった。
| 輸出相手国 | 2015年(億ユーロ) | 2025年(億ユーロ) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 米国 | 54 | 81 | +49.1% |
| イギリス | 50 | 60 | +18.5% |
| スイス | 26 | 36 | +38.2% |
| ノルウェー | 20 | 30 | +49.2% |
| トルコ | 12 | 19 | +58.1% |
| 中国 | 22 | 25 | +12.3% |
輸入集中度は著しく高まった
HHI指数によれば、輸入のHHI(金額ベース)は1,430から1,956へと36.8%上昇し、供給構造が中国・トルコへの集中を強めていることを示している。一方、輸出のHHIは618から793へ28.4%上昇と、相対的に分散化が保たれている。
3. 構造的変化と戦略的脆弱性の高まり
貿易黒字は大幅に縮小した
EUの鉄鋼製品貿易黒字は2015年の160億ユーロから2025年の92億ユーロへと42.1%縮小した。ネット輸入依存度は依然としてマイナス(=輸出超過)を維持しているが、その水準は−6.5%から−7.2%へと若干悪化している。
貿易の開放度は急上昇している
貿易集約度は20.6%から39.0%へ89.3%上昇し、輸出傾向も14.2%から26.8%へ88.9%上昇した。これはEUの鉄鋼産業が域外市場との結びつきを急速に強めたことを意味し、グローバル競争への曝露度が高まっていることを示唆する。
構造物部品(7308)が輸入の急成長セグメントとなった
製品セグメント別データによれば、構造物部品(7308)の輸入数量は2015年の93万㌧から2025年の275万㌧へと196.3%増加し、金額も17億→62億ユーロ(+253.6%)と急拡大した。
| 製品コード | 説明 | 2015年輸入数量(万㌧) | 2025年輸入数量(万㌧) | 変化率 |
|---|---|---|---|---|
| 7318 | ボルト・ナット類 | 139 | 183 | +31.6% |
| 7306 | 溶接管・中空形材 | 134 | 180 | +34.5% |
| 7308 | 構造物部品 | 93 | 275 | +196.3% |
| 7326 | その他鉄鋼製品 | 111 | 187 | +68.6% |
| 7325 | 鋳造品 | 47 | 58 | +25.0% |
| 7304 | シームレス管 | 51 | 52 | +1.6% |
| 7321 | 調理器具等 | 41 | 32 | −22.5% |
構造物部品の急増は、EU域内の建設・インフラ需要の拡大と、中国・トルコからの価格競争力のある輸入品の浸透を反映している可能性が高い。
ボルト・ナット類(7318)は依然として最大の貿易品目である
輸出面では、構造物部品(7308)が260万㌧で最大、次いでシームレス管(7304)が121万㌧、その他鉄鋼製品(7326)が143万㌧となっている。ボルト・ナット類(7318)は輸出数量こそ55万㌧と控えめだが、単価が10,586ユーロ㌧と全セグメント中最も高く、高付加価値品としての特徴が際立っている。
EU域内では専門化の格差が存在する
専門化指標によれば、2025年の時点でエストニア(RSCA: 0.348)、ルクセンブルク(0.336)、イタリア(0.245)が最も高い比較優位を示しているのに対し、アイルランド(−0.851)、マルタ(−0.850)、キプロス(−0.896)は著しく低い。ドイツはEU最大の輸出国(127億ユーロ)かつ最大の輸入国(77億ユーロ)であるが、専門化度は中程度であり、規模の経済と多様な品目構成に依存している。
Conclusion
2015年から2025年にかけてのEU鉄鋼製品市場は、3つの主要な構造変化を経験した。
第一に、価格主導の価値拡大である。輸出数量は減少したものの、単価上昇(+50.9%)により金額は拡大し、特に2022年のエネルギーコスト高騰が全セグメントの価格を押し上げた。生産額の208.5%増は、域内生産者が価格上昇の恩恵を受けたことを示す。
第二に、貿易相手国の劇的再編である。中国・トルコの台頭とロシアの消滅により、輸入のHHIは36.8%上昇し、供給の集中リスクが高まった。ロシアからの輸入は98%減少し、制裁による代替調達先へのシフトが急速に進んだ。
第三に、戦略的脆弱性の顕在化である。貿易集約度の89.3%上昇と輸入集中度の高まりは、EUの鉄鋼産業が域外市場の変動に一層曝されていることを意味する。貿易黒字の42.1%縮小は、輸入増大が輸出増加を上回っていることを示し、中長期的な競争力維持への課題を浮き彫りにしている。
EUの鉄鋼製品市場は、高付加価値分野(ボルト・ナット類、シームレス管)での競争力を維持しつつ、汎用品・構造物分野における中国・トルコからの輸入増大への対応が求められる局面にある。