Market evolution: 亜鉛及びその製品 (CN 79) — 2015–2025
はじめに
本報告書は、EUのCN 79(亜鉛及びその製品)に関する対外貿易動向を2015年から2025年まで分析するものである。対象製品は、未加工亜鉛(7901)から亜鉛製品(7907)、亜鉛粉末(7903)、亜鉛板・シート(7905)、亜鉛廃材(7902)、亜鉛棒・線材(7904)まで、幅広い製品セグメントを含む。分析期間を通じて、EUの亜鉛貿易は構造的な転換を遂げ、純輸入国から純輸出国へと変化した。以下では、この10年間で観察された主要な動向を3つの観点から分析する。
1. 貿易黒字の飛躍的拡大と純輸出国への転換
1.1 輸出の大幅増と輸入の構造的縮小
EUの亜鉛貿易は、期間を通じて顕著な輸出拡大と輸入の停滞という二重の動きを示した。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸出額(EUR) | 1,008,423,377 | 1,743,148,342 | +72.9% |
| 輸出数量(トン) | 484,326 | 609,950 | +25.9% |
| 輸入額(EUR) | 795,583,996 | 901,948,548 | +13.4% |
| 輸入数量(トン) | 342,073 | 263,379 | −23.0% |
| 貸借(EUR) | +212,839,381 | +841,199,795 | +295.2% |
1.2 純輸入依存度の符号反転
EUの純輸入依存度(net import reliance)は、2015年の+7.95%から2025年には−10.96%へと符号が反転した。これは、EUが亜鉛の純輸入国から純輸出国へと完全に転換したことを意味する。最大で+16.03%(純輸入依存のピーク)を記録した時期もあり、その後の急速な回転は注目に値する。
1.3 EU域内生産の倍増
この貿易構造の転換を裏付けるように、EU域内の亜鉛生産量は同期間に2,677,884,282 kgから5,552,651,397 kgへと+107.4%の増加を示した。生産額は6,691,885,164 EURから9,101,381,527 EUR(+36.0%)であり、数量の増加がはるかに顕著であった。これは、EUが自前の亜鉛製造能力を大幅に拡大したことを示している。
1.4 輸出志向の強化
輸出指向性(export propensity)は9.40%から19.67%へと+109.3%上昇し、貿易集約度(trade intensity)も23.24%から26.84%へと+15.5%増加した。輸出指向性の変化率が貿易集約度のそれを大きく上回ることは、EUの亜鉛産業が単なる国内需要の充足から国際市場への積極的な供給へと戦略的にシフトしたことを示唆する。
2. 貿易パートナーの地理的再編と供給源の集中化
2.1 輸入パートナーの劇的な変動
EUの主要輸入相手国の構成は、期間中に大きく変化した。
| 国名 | 2015年(EUR) | 2025年(EUR) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| ノルウェー | 186,392,071 | 358,689,018 | +92.4% |
| ペルー | 166,342,192 | 237,211,752 | +42.6% |
| 英国 | 125,044,409 | 34,882,407 | −72.1% |
| メキシコ | 48,622,818 | 15,420,813 | −68.3% |
| ナミビア | 84,471,830 | 576,930 | −99.3% |
| カザフスタン | 3,536,054 | 2,893 | −99.9% |
| インド | 4,715,666 | 12,041,795 | +155.4% |
2.2 供給源の高度集中化
輸入のHHI集中度指数は、金額ベースで1,536から2,520へと+64.1%、数量ベースでは1,841から3,298へと+79.2%それぞれ上昇した。HHIが2,500を超えると一般に「高集中」と評価されることから、EUの亜鉛輸入は少数の供給源に大きく依存する構造へと変化したといえる。ナミビアやカザフスタンからの輸入がほぼ消滅し、ノルウェーとペルーが全体の大部分を占めるようになったことが主因である。
2.3 輸出先の多角化
輸入とは対照的に、輸出先のHHI集中度は金額ベースで1,105から826へと−25.3%低下し、輸出先が多角化したことを示している。
| 輸出先国 | 2015年(EUR) | 2025年(EUR) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| トルコ | 145,535,694 | 408,513,630 | +180.7% |
| インド | 21,291,710 | 115,379,129 | +441.9% |
| シンガポール | 13,474,044 | 90,658,952 | +572.8% |
| ノルウェー | 17,757,164 | 35,489,101 | +99.9% |
| 英国 | 82,963,483 | 93,448,195 | +12.6% |
| 中国 | 87,580,938 | 33,474,863 | −61.8% |
| 米国 | 243,352,561 | 78,258,302 | −67.8% |
出典: General Overview – Top Partners
2.4 EU域内の輸出ハブと特化度
EU域内の特化度分析によれば、2025年時点で最も特化度の高い加盟国は以下の通りである。
| 加盟国 | RSCA | 生産シェア |
|---|---|---|
| フィンランド | 0.849 | 12.24% |
| ブルガリア | 0.486 | 1.82% |
| ベルギー | 0.389 | 19.23% |
| オランダ | 0.255 | 24.45% |
| スペイン | 0.185 | 8.42% |
輸出額では、スペインが+88.5%の増加(3.87億→7.30億EUR)で首位に立ち、ベルギー(+84.7%)、ドイツ(+27.8%)、オランダ(+79.9%)が続いた。EU域内輸出者の動向を見ると、南欧・西欧諸国の役割が拡大していることが分かる。
3. 価格変動とサプライチェーンの回復力
3.1 価格上昇と2022年のピーク
EUの亜鉛貿易における平均価格は期間を通じて上昇傾向を示したが、中でも2022年が顕著なピークであった。
| 指標 | 2015年(EUR/t) | 2022年(EUR/t) | 2025年(EUR/t) | 期間変化率 |
|---|---|---|---|---|
| 輸出単価 | 2,082 | 3,488 | 2,858 | +37.2% |
| 輸入単価 | 2,326 | 3,994 | 3,424 | +47.3% |
2022年の異常な価格上昇は、世界的なエネルギー危機、サプライチェーンの混乱、および地政学的緊張の高まりを反映したものと考えられる。輸入単価の上昇率(+47.3%)が輸出単価の上昇率(+37.2%)を上回ったことは、EUが海外調達コストの上昇により強く晒されていたことを示す。
3.2 製品セグメント別の価格動向
製品セグメント別の分析によれば、未加工亜鉛(7901)が貿易の大部分を占めている。
輸入における7901の動向:
| 年 | 数量(トン) | 額(EUR) | 単価(EUR/t) |
|---|---|---|---|
| 2015 | 282,432 | 553,790,138 | 1,961 |
| 2022 | 396,454 | 1,432,027,535 | 3,612 |
| 2025 | 208,258 | 580,293,694 | 2,786 |
輸出における7901の動向:
| 年 | 数量(トン) | 額(EUR) | 単価(EUR/t) |
|---|---|---|---|
| 2015 | 340,264 | 638,842,856 | 1,877 |
| 2022 | 242,147 | 819,150,672 | 3,383 |
| 2025 | 467,296 | 1,230,233,015 | 2,633 |
3.3 供給ショックとボラティリティの偏在
貿易パートナー別の変動係数(CV)を見ると、供給の安定性には大きな差がある。
輸入における変動係数(安定順):
| 国名 | CV | 特徴 |
|---|---|---|
| 中国 | 0.089 | 最も安定 |
| ノルウェー | 0.108 | 安定 |
| ペルー | 0.121 | 安定 |
| カザフスタン | 1.407 | 極めて不安定 |
| インド | 2.523 | 最も不安定 |
安定した供給源であったノルウェーとペルーが輸入の中心となったことは、EUの供給戦略がリスク回避型にシフトしたことを示唆する。一方で、検出されたサプライショックを見ると、2017年のメキシコからの輸入価格ショック(異常値50.6、変化率+39.7%)や、2022年のサウジアラビアへの輸出価格ショック(異常値26.0、変化率+379.7%)など、特定市場における急激な価格変動が確認される。
結論
2015年から2025年にかけて、EUの亜鉛貿易は劇的な構造変化を経験した。最も重要な変化は、EUが純輸入国から純輸出国へと転換したことである。この転換は、域内生産量の倍増(+107.4%)と輸出の大幅拡大(+72.9%)によって支えられたものである。同時に、輸入は数量で23%縮小し、供給源は少数国への集中が進んだ(HHI +64.1%)。輸出面ではトルコ、インド、シンガポールへの展開が顕著であり、輸出先の多角化(HHI −25.3%)が実現された。価格面では2022年の世界的エネルギーコスト高騰が一時的に大きな影響を与えたが、2025年にはやや落ち着きを取り戻している。今後は、主要輸入供給源の集中度が高いことによる供給リスクと、EU域内生産能力の持続可能性が重要な注目ポイントとなるだろう。