Market evolution: 写真フィルム (CN 37) — 2015–2025
はじめに
本報告書は、EUのCN 37(写真・映画用品)に関する対外貿易の動向を2015年から2025年にかけて分析するものである。CN 37は感光フィルム、写真用化学製品、映画フィルムなど、デジタル化の波に最も直面している製品群を含んでいる。分析期間中、EUは輸出額で約11.1%減少し、輸入額は約39.8%増加する中、貿易黒字から約9,900万ユーロの赤字へと転換した。
1. デジタル化と国内生産の崩壊:構造的転換の深化
EUの写真関連生産は激減している
CN 37のEU域内生産は、本報告期間中に劇的に縮小した。生産量(平方メートル)は約18.5億m²から約3.7億m²へと79.8%減少し、生産額は約39億ユーロから約14億ユーロへと64.7%縮小した。これは、デジタルカメラおよびスマートフォンの普及によるフィルム需要の構造的衰退を反映している。
輸出数量の大幅減少と高付加価値化
EUのCN 37輸出数量は142,059トンから86,060トンへと39.4%減少したが、輸出単価は10,961ユーロ/トンから16,084ユーロ/トンへと46.7%上昇した。これは、安価な量産品から撤退し、ニッチな高付加価値製品へと輸出構造が移行していることを示唆する。
セグメント別の構造変化
セグメント別の輸入動向を見ると、写真フィルム(CN 3702)の輸入単価は18,573ユーロ/トンから71,425ユーロ/トンへと約4倍に高騰し、現像済みフィルム(CN 3705)の輸入単価は277,499ユーロ/トンから4,176,540ユーロ/トンへと約15倍に急騰した。一方、写真用紙(CN 3703)の輸入量は7,124トンから310トンへと95.6%減少した。
| セグメント | 輸入数量(2015年) | 輸入数量(2025年) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| CN 3701(フィルム・シート) | 17,674 t | 65,095 t | +268.3% |
| CN 3707(写真用化学品) | 25,088 t | 12,719 t | -49.3% |
| CN 3703(写真用紙) | 7,124 t | 310 t | -95.6% |
| CN 3702(ロールフィルム) | 1,981 t | 888 t | -55.2% |
| CN 3705(現像済みフィルム) | 396 t | 135 t | -65.9% |
2. 貿易パートナーの劇的再編:英国離脱と中国の台頭
英国(ブレグジット)の影響が極めて深刻
本報告期間中、最も顕著な変化は英国との貿易の崩壊である。EUの英国への輸出額は2.92億ユーロから1.12億ユーロへと61.7%減少し、英国からの輸入額は3.86億ユーロから4,553万ユーロへと88.2%減少した。英国は2015年のEU最大の輸入相手国であったが、2025年には第7位に転落した。
中国が主要輸入相手国として急成長
中国からの輸入額は4,022万ユーロから2.61億ユーロへと549.8%増加し、EUのCN 37輸入に占める中国のシェアは約3.8%から約17.6%に拡大した。中国の輸入額の変動係数(CV)は0.69と高いが、これは成長が急速かつ不安定であったことを示す。
米国は安定的な主要パートナーとしての地位を維持
米国からの輸入額は3.05億ユーロから7.43億ユーロへと144.1%増加し、2025年にはEU最大の輸入相手国(全体の約50.1%)となった。米国の変動係数は0.19と比較的低く、安定的な供給源であることを示す。
ロシアへの輸出は制裁の影響で縮小
ロシアへのEU輸出額は7,622万ユーロから2,172万ユーロへと71.5%減少した。輸出額の変動係数は0.56と高く、ロシアの動向が不安定であったことを反映している。
| 輸入相手国 | 2015年(百万ユーロ) | 2025年(百万ユーロ) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 米国 | 304.5 | 743.4 | +144.1% |
| 日本 | 279.3 | 400.8 | +43.5% |
| 中国 | 40.2 | 261.3 | +549.8% |
| 英国 | 385.7 | 45.5 | -88.2% |
| ブラジル | 3.1 | 4.3 | +39.8% |
3. 貿易集中度の高まりと供給リスクの変化
輸入市場の集中度が上昇
輸入のHHI(ハーフィンダール=ハーシュマン指数)は2,854から3,565へと24.9%上昇し、輸入供給源の集中が進行した。輸出のHHIは890から1,069へと20.1%上昇したが、輸出市場は依然として輸入市場よりも多様化されている。
EU域内の専門化と貿易依存度
2025年の専門化指数(RSCA)では、ベルギー(0.355)、オランダ(0.314)、ドイツ(0.184)がEU内で最も高い比較優位を示している。一方、純輸入依存度は-4.0%から-15.6%へと悪化し、EUのCN 37市場は純輸出国から純輸入国へと転換した。
貿易の集約化と価格変動
EUの貿易集約度は73.2%から90.7%へと上昇し、CN 37市場におけるEUの対外貿易依存度が高まった。輸出傾向は58.6%から84.2%へと43.7%増加し、EU域内でのCN 37需要が縮小する中、域外市場への依存が深まっている。
価格面では、日本からの輸入において2017年に異常な価格変動(異常度20.0、変化率+38.4%)が検出された。マレーシアからの輸入は変動係数0.92と極めて不安定であり、安定供給源としては信頼性が低い。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸入HHI | 2,854 | 3,565 | +24.9% |
| 輸出HHI | 890 | 1,069 | +20.1% |
| 純輸入依存度 | -4.0% | -15.6% | -289.6% |
| 貿易集約度 | 73.2% | 90.7% | +23.9% |
| 輸出傾向 | 58.6% | 84.2% | +43.7% |
結論
CN 37市場は2015年から2025年にかけて、デジタル化による需要構造の変化と地政学的ショックという二重の圧力にさらされた。国内生産の崩壊(-79.8%)と貿易赤字への転換は、EUの写真関連産業における競争力の喪失を示している。一方で、高付加価値製品(CN 3705、CN 3701)への輸出構造のシフトが進み、輸出単価は46.7%上昇した。
地政学面では、英国のEU離脱による貿易の急激な縮小(輸入-88.2%、輸出-61.7%)が最も大きな構造変化であり、米国と中国が新たな主要供給源として台頭した。ロシアへの輸出は制裁の影響で71.5%減少した。輸入市場の集中度(HHI)は24.9%上昇し、少数の供給源への依存が高まっている。
今後のCN 37市場は、ニッチな高付加価値製品(光学フィルム、医療用フィルム、アート用フィルム等)に特化した構造へとさらに収斂していくと予想される。EUは輸入依存度を高める中で、供給源の多様化と域内生産基盤の維持に関する戦略的判断が求められる局面にある。