Market evolution: 乳製品卵蜂蜜 (CN 04) — 2015–2025
はじめに
本報告書は、EUの税番号04(乳製品、鳥卵、天然蜂蜜、その他の食用動物性産品)に関する域外貿易の2015年から2025年までの動向を分析するものである。対象品目はCNコード04の見出し全体を網羅し、生乳・クリーム(0401)、粉乳・練乳(0402)、発酵乳・ヨーグルト(0403)、ホエイ(0404)、バター(0405)、チーズ・カード(0406)、鳥卵(0407・0408)、天然蜂蜜(0409)、その他食用動物性産品(0410)を包含する。
分析期間を通じ、EUは一貫して純輸出国であり、貿易黒字は2015年の約106億ユーロから2025年には約169億ユーロへと拡大した。輸出額は約128億ユーロから約203億ユーロへと59%増加し、単価上昇が数量増加を大きく上回るトレンドが鮮明となった。以下では、EU乳製品貿易の主要ダイナミクスを三つの観点から詳述する。
1. 輸出主導の拡大と純輸出地位の一段の強化
1.1 輸出額の成長率が輸入を大幅に上回る
2015年から2025年にかけて、EU域外向けの乳製品輸出額は127.5億ユーロから202.8億ユーロへと59.0%増加した。同期間の輸入額は21.9億ユーロから34.1億ユーロへと55.6%の増加にとどまり、純輸出の拡大テンポが輸入増を上回った。貿易黒字は2015年の105.6億ユーロから2025年には168.7億ユーロへと59.7%拡大し、EUの乳製品セクターにおける国際競争力の強化を示している。
| 指標 | 2015年 | 2025年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 輸出額(億ユーロ) | 127.5 | 202.8 | +59.0% |
| 輸出数量(百万トン) | 5.44 | 5.80 | +6.7% |
| 輸出単価(ユーロ/トン) | 2,345 | 3,496 | +49.0% |
| 輸入額(億ユーロ) | 21.9 | 34.1 | +55.6% |
| 輸入数量(百万トン) | 1.33 | 1.67 | +25.7% |
| 輸入単価(ユーロ/トン) | 1,655 | 2,048 | +23.8% |
| 貿易黒字(億ユーロ) | 105.6 | 168.7 | +59.7% |
1.2 価格上昇が輸出額拡大の主要因
輸出数量の増加率(+6.7%)に比べ、輸出単価は+49.0%と大幅に上昇し、輸出額増の大半が価格要因で説明できる。2022年に世界的なエネルギーコスト高騰と食料インフレの影響でEU乳製品の輸出単価は急騰し、その後やや調整したものの2025年には過去最高値に迫る水準を維持している。輸入側でも同様の傾向が見られるが、輸入単価の上昇率(+23.8%)は輸出単価の上昇率(+49.0%)を大幅に下回っており、EUは価格交渉上有利なポジションを維持していると解釈できる。
1.3 純輸入依存度はさらにマイナス圏で推移
Net import relianceは全期間を通じて負の値を示しており、EUが純輸出国であることを意味する。2015年の-8.7%から2019年には-15.4%まで拡大(純輸出地位の強化)した後、2025年には-12.3%にとどまった。COVID-19パンデミック以降の世界的な需要変動と2022年の価格高騰が、一時的に純輸出拡大ペースを抑制した可能性がある。また、trade intensityは12.0%から14.6%へ、export propensityは10.1%から13.0%へそれぞれ上昇し、EU乳製品産業の対外依存度が高まっていることを示している。
2. 輸出市場の地理的多角化と地域ごとの成長格差
2.1 アジア・中東市場が急成長、英国は最大の安定パートナー
EU域外輸出の主要相手国を見ると、英国が2015年の31.1億ユーロから2025年には46.0億ユーロへと47.6%増加し、最大の輸出先としての地位を維持した。英国パートナーのボラティリティ(変動係数)は0.05と全主要相手国中最も低く、地理的近接性と制度的連携(2020年以前のEU単一市場参加、その後のTCE協定)による安定した貿易関係がうかがえる。
一方、最も急速な成長を見せたのは韓国(+203.6%)と米国(+102.4%)であった。
| 輸出先 | 2015年(億ユーロ) | 2025年(億ユーロ) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 英国 | 31.1 | 46.0 | +47.6% |
| 米国 | 10.4 | 21.1 | +102.4% |
| 中国 | 8.4 | 13.0 | +53.8% |
| 韓国 | 2.4 | 7.4 | +203.6% |
| スイス | 4.4 | 8.4 | +92.3% |
| サウジアラビア | 4.8 | 7.3 | +51.6% |
| アルジェリア | 4.1 | 4.6 | +11.9% |
2.2 EU域内の輸出構造 — フランス・アイルランド・イタリアが成長をけん引
EU域内の報告国別に見ると、域外輸出額が最も大きいのはフランス(32.9億ユーロ、+34.0%)、オランダ(27.7億ユーロ、+15.8%)、ドイツ(22.9億ユーロ、+27.5%)であった。しかし成長率ではアイルランド(+118.9%:11.7億→25.6億ユーロ)とイタリア(+142.8%:9.4億→22.8億ユーロ)が突出しており、アイルランドの酪農セクターの急速な拡大とイタリアの高付加価値チーズ(パルメザン、グラナ・パダーノ等)のアジア市場での需要拡大が寄与したと推察される。
2.3 輸入側ではウクライナの急浮上が際立つ
輸入相手国では、英国(16.2億ユーロ、+35.2%)とスイス(5.9億ユーロ、+38.7%)が引き続き上位を占める。最も劇的な変化はウクライナであり、2015年の4,810万ユーロから2025年には4.22億ユーロへと776.6%増加した。2022年以降のEUによるウクライ産品への関税免除措置(Autonomous Trade Measures)がこの急成長の主要因と考えられる。一方、中国からの乳製品輸入は1.35億ユーロから1.02億ユーロへと24.1%減少した。ニュージーランドからの輸入は9,200万ユーロから2.20億ユーロへと139.4%増加しており、同国の粉乳・バターのEU市場進出が加速している。
| 輸入元 | 2015年(億ユーロ) | 2025年(億ユーロ) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 英国 | 12.0 | 16.2 | +35.2% |
| スイス | 4.2 | 5.9 | +38.7% |
| ウクライナ | 0.5 | 4.2 | +776.6% |
| ニュージーランド | 0.9 | 2.2 | +139.4% |
| 中国 | 1.3 | 1.0 | -24.1% |
2.4 輸入集中度は低下、輸出は分散型を維持
輸入側のHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)(値基準)は2015年の3,428から2025年には2,786へと18.7%低下し、供給源の多角化が進んだことを示している。これは主にウクライナやニュージーランドの台頭によるものである。輸出側のHHIは813から782へと小幅低下(-3.8%)にとどまり、もともと分散化された輸出先構造が維持されている。ウクライナからの輸入における変動係数(CV)は0.62と比較的高く、地政学的リスクに伴う供給変動の可能性を示唆している。
3. 品目別構造と価格高騰の波及効果
3.1 チーズがEU乳製品輸出の半分を占める主力品目
品目別内訳を見ると、EU域外輸出においてチーズ(0406)は2025年に90.7億ユーロ(輸出総額の約45%)を占め、輸出額のほぼ半分に迫る規模となっている。次いで練乳・粉乳(0402:35.2億ユーロ)、バター(0405:22.8億ユーロ)、ホエイ(0404:14.4億ユーロ)が続く。
| 品目 | 2015年輸出額(億ユーロ) | 2025年輸出額(億ユーロ) | 変化率 | 2015年輸出単価(ユーロ/t) | 2025年輸出単価(ユーロ/t) |
|---|---|---|---|---|---|
| 0406 チーズ | 50.2 | 90.7 | +80.8% | 4,327 | 6,381 |
| 0405 バター | 10.0 | 22.8 | +127.3% | 3,863 | 8,414 |
| 0402 粉乳・練乳 | 33.3 | 35.2 | +5.6% | 2,217 | 2,785 |
| 0404 ホエイ | 9.2 | 14.4 | +56.1% | 1,432 | 1,671 |
| 0401 生乳・クリーム | 7.8 | 15.4 | +95.8% | 771 | 1,394 |
| 0403 発酵乳 | 7.1 | 12.0 | +69.0% | 1,459 | 2,012 |
| 0407 鳥卵(殻付き) | 6.4 | 7.1 | +10.8% | 2,313 | 3,896 |
3.2 バター価格の異常な上昇が構造変化の核心
輸出単価の推移で最も顕著なのはバター(0405)であり、2015年の3,863ユーロ/トンから2025年には8,414ユーロ/トンへと117.8%上昇した。2022年には7,173ユーロ/トンまで急騰し、2025年にはさらにこれを上回る水準となった。チーズの輸出単価も同期間に47.0%上昇し、高付加価値化のトレンドが鮮明である。一方、数量面では練乳・粉乳(0402)が150.3万トンから126.4万トンへと15.9%減少しており、価格上昇で補完している構造がうかがえる。
3.3 輸入品目の構造変化 — バターと生乳の急増
輸入側では、生乳・クリーム(0401)の輸入額が2.29億ユーロから5.36億ユーロへと133.5%増加し、最も高い成長率を示した。数量でも57.0万トンから80.0万トンへと40.4%増加しており、EU域内需要(特にアイルランド、フランス、イタリアの加工業者)が堅調であることを反映している。バター(0405)の輸入額も1.68億ユーロから4.78億ユーロへと急増(+185.2%)し、バター輸入単価は3,016ユーロ/トンから6,635ユーロ/トンへと倍増した。
| 品目 | 2015年輸入額(億ユーロ) | 2025年輸入額(億ユーロ) | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 0406 チーズ | 8.7 | 12.6 | +45.0% |
| 0409 天然蜂蜜 | 4.2 | 3.6 | -13.5% |
| 0401 生乳・クリーム | 2.3 | 5.4 | +133.5% |
| 0405 バター | 1.7 | 4.8 | +185.2% |
| 0402 粉乳・練乳 | 1.9 | 2.3 | +24.2% |
| 0404 ホエイ | 0.6 | 0.9 | +36.7% |
| 0403 発酵乳 | 0.8 | 0.5 | -35.7% |
3.4 2022年の価格ショックとその余波
2022年には複数の輸出先で価格ショックが検出された。韓国向け輸出では異常度42.0の価格ショック(前年比+38.5%)、シンガポール向けでは異常度19.0(+37.9%)、ドミニカ共和国向けでは異常度18.3(+49.5%)が検出されている。これらはいずれも2022年に集中しており、ロシアによるウクライナ侵攻に伴うエネルギー・飼料コストの高騰と、世界的な乳製品需給逼迫が直接的な要因であると考えられる。2023年以降は価格がやや調整されたものの、2025年時点でも2021年以前の水準には戻っておらず、コスト構造の一段の上昇が定着した可能性がある。
おわりに
CN 04(乳製品等)のEU域外貿易は2015年から2025年にかけて、輸出主導の構造を一段と強化しつつ、質的な変化を遂げた。第一に、輸出額の59%増の内訳を見ると、数量増(+6.7%)よりも単価上昇(+49.0%)が圧倒的に大きく、EU産乳製品の付加価値化と価格決定力の向上が鮮明となった。特にバターとチーズの単価上昇は顕著である。
第二に、輸出市場は地理的に多角化し、韓国や米国といったアジア・北米市場での急成長が英国への依存を相対的に低下させた。輸入側ではウクライナが2022年以降急速に主要サプライヤーとして台頭し、供給源の多角化に貢献したが、地政学的リスクを伴う一面もある。
第三に、EUの乳製品産業は純輸出地位を維持しつつも、生産量・生産額ともに大幅に拡大(生産量+174%、生産額+244%)しており、域内需要の堅調さと域外市場の拡大を同時に満たす成長経路を歩んでいる。貿易集中度の低下(HHIの低下)と供給の多角化は、EU乳製品セクターの回復力を高める方向に作用しているが、地政学的ショック(2022年のエネルギーコスト高騰等)が与えた価格構造の変化は恒久的なものとなりつつあり、今後の注視が必要である。